こんにちは、ひもです。
1stワンマンライブ『RAMPAGE』まで、残すところ3週間を切りました。
すでにワクワクが止まりませんね。
私も『RAMPAGE』をより楽しむべく、一日中オリ曲をリピート再生しています。
せっかくだから楽曲のレビュー記事作ろう、まずは『RISE』と『VERSUS』かな~、と構成を練っていたのですが、その2曲の歌詞で少し引っかかる部分が出てきました。
たとえば『RISE』では、
・「記憶」
・「運命」
・「黄昏」に鳴る「鐘」。
『VERSUS』では、
・「夜」と「夜明け」
・「太陽」と「月」
・「運命」と「光」
・「廻る世界」・「廻る意味」。
それらの意味を考えていくと、
「『VESPERBELL』というユニット名の意味や世界観と関係がありそう」
という気がしてきました。
そこで、本稿では、『VESPERBELL』というユニット名について深掘りしていこうと思います。
流れとしては、
1章:まず「vesperbell」という言葉の一般的な意味や由来・ニュアンスを調べる
2章:1章を踏まえて、我らがバーチャルガールズデュオの名前『VESPERBELL』の意味を考える
…の順で検討していきます。
この記事は「1章」部分にあたります。
2章のための下ごしらえです。
「まとめだけ知りたい」という方は「4. この章のまとめ」まで飛ばしてください。
よろしければ、お付き合いください。
・「言葉の意味やニュアンスってどう検討するの?」 ・「そもそも言葉の「意味」とか「ニュアンス」って何?」 という、それなりに大事だけど細かい話は、【補論①】として別の記事にまとめています。 【補論】を読み飛ばしても大筋は伝わるように書いています。 まずはメインの考察記事に目を通して、「何が言いたいかわからん」となったときにご参照ください。
第1章 「vesperbell」という言葉の意味・ディテール・イメージ
1節 「VESPERBELL」=「vesper」+「bell」
英語の辞書に「vesperbell」という10文字の単語は存在しない。
代わりに、「vesper bell」と、「vesper」と「bell」を組み合わせた熟語であれば登場する。
「晩鐘」と訳すのが一般的なようである。
「晩鐘」という言葉は、ここではいったん「夕方に鳴らす鐘」とゆるやかに理解しておこう。
この「晩鐘」にまつわる言葉は、『VESPERBELL』の楽曲にも出てくる。
たとえば、 『RISE』の歌詞の中、
嗚呼 鳴り出した 鐘が導く運命 黄昏に叫ぶ
と出てくる。
黄昏(=夕方・日が沈む頃)に鳴る鐘は、晩鐘だ。
『inspire』では、もっと直接的に
鳴り止まない 遠い晩鐘
と出てくる。
また、『ignition』では、歌詞ではなく、楽曲MV映像の中に近い言葉が出てくる。
開始39秒で一時停止してみてほしい。
銃のグリップにかかっているプレートを左右反転すると
となる。
「宵」は「日が落ちて暗くなった頃」なので、これも晩鐘だ。
(なお、06-07を日付に直した6月7日は、VESPERBELLのデビュー日である。)
このように、「VEPERBELL」の楽曲のなかには、「晩鐘」に関連するものが度々現れる。
このことから、「VESPERBELL」とは、「晩鐘」=「vesper bell」を短縮した造語だと考えられる。
2節 「vesper」 =???
1. 「vesper」だけでも「晩鐘」?
実は、「vesper bell」という熟語ではなく、「vesper」という単語一つだけでも「晩鐘」という意味を持つ。
それだと、「vesper bell」をそのまま訳すと「晩鐘の鐘」と、頭痛が痛いみたいになってしまいそうだ。
「vesper bell」の意味を知るために、まず、「vesper」という言葉を深掘りしてみよう。
※以降、見やすいように「vesper」という単語の文字色を青色にしておく。
2. 「vesper」の由来―古代ローマと「宵の明星」
「vesper」という言葉の歴史は、古代ローマ時代まで遡る。
1日のうち「日が沈む前後の時間帯」のことを「vesper」と呼んだ。
古代ローマでは、時間を決める基準は太陽と星だった。
1日を
「日の出ている時間帯=dies」
「日の出ていない時間帯=nox」
の2つに分け、それぞれの中身をさらに細かく分けて時間の区切りとした。
日中の時間を知るには、日時計が利用された。
棒を立て、その影の向き・長さによって時間を測るものだ。
古代ローマでは、街中の至るところに日時計が設置されていて、なかには携帯用の日時計まであった。
そのため、日中のおおまかな時間は簡単に知ることが出来た。
(ただし、当時の技術では日時計それぞれにズレがあったから、「時間ぴったり」の待ち合わせは不可能であったようだ。あくまで「おおまかな」時間である。)
「vesper」は「日の出ている時間帯=dies」をいくつかに細かく分けた、最後のパートの名前である。
【余談】「vesper」は「●時●分」? 古代ローマだろうと、現代日本だろうと、「日の出」で始まり「日の入り」に終わる「日の出ている時間帯」は、季節によって異なる。 だから、古代ローマの「dies」は、「現代の時計で何時に始まり何時に終わる」と定義することができない。 「vesper」も同様である。 日本でいう「夕暮れ時」を「●時●分」と定義できないのと同じだ。
古代ローマで「vesper」という言葉が指すものは、他にもある。
ローマ神話に登場する「Vesper」(ヴェスペル)という神である。
古代ローマでは、キリスト教が広まるまで、ローマ神話信仰がメジャーだった。ローマ神話は、ギリシャ神話をローマ的にアレンジしたものである。
ギリシャ神話には「宵の明星」を司る「Hesperos」(ヘスペロス)という神が登場する。この神がローマ神話にも引き継がれ、「Vesper」というラテン語が生まれたのである。
そのため、「vesper」は宵の明星それ自体のことも指す。
これが由来となって、「日が沈み、宵の明星が出る頃の時間帯」のことを「vesper」と呼ぶようになったのだ。
【余談】「宵の明星」とは 「宵の明星」とは、「日没頃に、西側の空に輝いて見える金星」である。 対になる言葉は「明けの明星」。「明け方に、東の空に見える金星」である。 「宵の明星」も「明けの明星」も、輝きが強く薄暗い空にあってよく目立つ。 ちなみに、金星は、真夜中のあいだ、地球からは見えることの出来ない位置にある。 他方、昼間の金星は、太陽が明るすぎるため、見えづらい。 金星がよく見えるのは、日没頃と明け方の2回であり、これを人は「宵の明星」「明けの明星」と呼んだ。 古代ローマでは、星は神に結びつくものであった(星座をイメージしてほしい)。 天文学も発達しており、夜の時間は星の配置によって測られた。 夜空のなかでも明るく輝く「宵の明星」「明けの明星」は、ローマ人にとって、神聖なものであり、また星々を観察する目印でもあった。
3. 「vesper」はまだ「晩『鐘』」ではなかった
前項で説明したとおり、古代ローマでは時間を知るのに「日時計」を用いていた。
時間を知りたければ、自分の近くにある日時計を見ればよい。
そのため、古代ローマでは、「『鐘』で時間を知らせる」という習慣はまだなかった。
時間の合図として鐘が使われるようになるのは、キリスト教が広まった中世以降である。
4. 「晩『鐘』」は何のため? ―キリスト教と「祈りの合図」
古代から中世にかけて、キリスト教がヨーロッパ中に浸透し、社会の基盤となった。
各地に教会ができ、教会を中心として村が発展した。
キリスト教は、「キリストは唯一神の子である」という抽象的な考え方だけでなく、「何時に教会でお祈りをしましょう」など、日常生活における共通ルール・しきたりとしても市民に根ざし、生活の基礎となった。
【余談】キリスト教と政治 このようにキリスト教は、「キリストの教えに従うとこうすべきである」と、ルールに正統性を与える権威としての地位を得ていた。 そのルールには、「この地は○○が統治する」というものも含まれる。 そのためキリスト教は政治権力と結びつき、キリスト教の拠点である教会も権力を獲得した。 後に起こる宗教改革は、キリスト教をどう理解するかという教義の対立だけでなく、王が教会の権力をどう排除するかという政治的な戦いでもある。)
その「しきたり」の中に、「1日7回の祈り」がある。
キリスト教の「しきたり」のなかには、毎日行うべき日課がたくさんある。
その日課のなかでも、「1日7回、決められた時間に祈りを捧げる」ことは非常に重要なものであり、これは「聖務日課」と呼ばれた。
教会内のスケジュールは、「聖務日課」の時間を基準として決められた。キリスト教にとって1日とは「1日7回の祈り」によって区切られるものであり、「1日7回の祈り」がいわば時計の目盛りであった(カノニカル・アワーという)。
そして、教会は、「1日7回の祈りの時間」が到来した合図として、村中に響く音で鐘を鳴らす。
「1日7回の祈り」は、本来、聖職者でない村人も「教会で集まって行う」ことが望ましい。集まることができずとも、せめてその場で祈るべきである。
そのため、村人すべてに合図が届くように、教会は大きな鐘が備え付けられた。
こうして、村人の生活習慣は、鐘の音によって規則化されるようになった。
人々の時間を区切るものは、「それぞれが見上げる太陽と星・日時計」から「教会の鐘の音」に置き換えられていった。
といっても、古代ローマ的な時間の考え方・呼び方がなくなったわけではない。
そもそも「教会が鐘を鳴らす時間」だって、教会の担当者が日時計・天体時計を使って確認していたのだ。
古代ローマの時計の上に、「キリスト教にとって大事な・鐘を鳴らすべき時間はここだ」と印をつけていったので、鐘の時間の呼び名に古代ローマの呼称がそのまま引き継がれることもあった。「vesper」もその一つだ。
「日没前後の時間」を表す言葉といえば「vesper」であったので、《「1日7回の祈り」のうち日没前後に行うもの(「晩課の祈り」という)》は、「vesper」に行う祈りだ。そこで、この「晩課の祈り」それ自体も「vesper」と呼ばれるようになった。転じて、「晩課の祈り」の時間を告げる鐘の音や、「晩課の祈り」で始まる時間帯も「vesper」と呼ばれるようになる。
このようにして、「晩課の祈り」や「晩鐘」という意味が、「vesper」の中に書き足されたのである。
5. 「vesper」にまつわる芸術
中世ヨーロッパにおいて、芸術はキリスト教を中心に発展した。ルネサンス以降も、宗教は芸術の主要なモチーフの一つである。
そのため、宗教的に重要な儀式である「vesper」に関する芸術作品も産み出されてきた。
●音楽
教会において主を称える方法は、ただ祈るだけではない。賛美歌や教会音楽を奏でるという方法もある。「vesper」も例外ではない。「vesper」 を題名に冠したり、主題とする賛美歌・教会音楽は枚挙に暇がない。
「vesper」という言葉が連想させる「音」に関するイメージは、まずは鐘の音であろうが、賛美歌やパイプオルガンの荘厳な調べも結びついている。
●絵画
「晩鐘」と訳されるとても有名な絵画(ミレー)がある。
暮れなずむ空の下、鐘の音を聞いた農夫婦が、畑仕事の手を止め祈りを捧げる様子を描いたものだ。
【余談】ミレーの「晩鐘」は「vesper」ではない?? ミレーの絵画「晩鐘」の原題は「vesper」ではなく「L'Angélus(アンジェラス)」(英訳するとangel、天使)。 ミレーが作品の舞台としたところでは、一日のうち朝6時、正午12時、夕方6時の3回、教会が「アンジェラスの鐘」を鳴らし、その鐘を合図として市民が「アンジェラスの祈り」を捧げていた。 聖書のなかの物語に、「天使がマリアのもとを訪れ、主の子(キリスト)を受胎したことを告げる(受胎告知)」という重大なシーンがある。 「L'Angélus(アンジェラス)」とはこの天使である。 アンジェラスの祈りは 「Angelus Domini nuntiavit Mariae」 (訳:主の御使いである天使がマリアに告げた) ではじまる、マリアがキリストを宿したことを記念する祈りである。 絵画「晩鐘」に描かれているのは、夕方の「アンジェラスの祈り」の場面である。 一方、「vesper」の祈りは、伝統的に 「Deus, in adiutorium meum intende.」 (訳:私の助けになってください、神よ) で始まる。 だから、この絵で鳴っている鐘は、「vesper」ではない。 ただ、日本においては「アンジェラスの鐘」といっても通じない。 「夕方に教会で鐘が鳴って、それでお祈りしてる」というイメージが伝わるように「晩鐘」と訳したのだろう。
6. 「vesper」の現在
中世から時代が進むにつれ、教会を通じたキリスト教の実践は、かつてほど市民生活と一体のものではなくなっていった。
しかし、「これと共に鐘も衰退した」とはならなかった。
機械時計が進歩し、「共通で正確な時間」が社会基盤となったことで、鐘は「正確な時間を報せるもの=時報」という役割を引き受けた。
教会と関係のない「時計塔」が建設され、教会の「晩鐘」もこれに合わせて機械時計の「午後○時」に鳴らされるようになった。
教会の「晩鐘」を「『晩課の祈り』の合図」ではなく「単に時間を報せるもの」と認識する人も増えた。
中世の人々にとって「晩鐘」と「キリスト教」「祈り」は密接不可分であったのだが、時代の変化に伴い、「晩鐘」を「キリスト教」「祈り」に関係ないものとして認識する人が現れたということである。
しかし、そのような人々も、夕方頃の鐘のことを相変わらず「vesper」と呼んだ。
つまり「vesper」は「キリスト教」・「祈り」を必要不可欠の要素としなくなった。
さらに時が進み現代に入ると、機械式時計が市民の家庭に普及していった。
「大きな音で合図を鳴らす道具」としてサイレンも発明された。
これにより鐘は「時報」としての役目も終えた。
それでも、今もなお一部の時計塔では鐘を鳴らし続けている。
それは「必要だから」という理由ではない。「伝統として」残されているものだったり、あるいは観光名所となっている。
こうして「vesper」は、現代人の視点からすると伝統的な情景を想起させ、それゆえにノスタルジックな雰囲気を醸し出すこともある。
実際、英語の辞書において、「vesper」のいくつかの意味の一つを「evening」と説明する箇所では、「Archaic」(古語・文学的表現)と付けられていることが多い。
(確認できた範囲では、collins、Merriam-Webster、American Heritage、Oxford Pocket Dictionaryが該当する。)
なお、Wiktionary(Wikipediaの国語辞典バージョンのようなもの) では「poetic」(詩的表現)と言われている。
3節「vesper bell」=???
「vesper」という単語の持つたくさんの意味、そして、その一つに「晩鐘」も含むということがわかった。
それでは「vesper」という言葉と「vesper bell」という言葉はどんな関係だろう?
1. 英語の辞書における扱い
まず、英語での代表的なオンライン辞書で「vesper bell」という言葉がどのように扱われているか確認しよう。
オンライン辞書には
(ア) 出版社が編集している辞書をオンライン公開しているもの
(イ) ユーザーが自由に編集できる辞書サイト(wikipediaのようなスタイル)
…の2つがある。
一般的には、(ア) は専門の編集員が一貫した編集しており、信頼性が高い。(イ) は多くの人の意見を反映するためより広範な説明がされる。…という傾向がある。
(ア) 出版社が編集している辞書
「vesper bell」を、独立の項目として説明しているものはなかった。
「vesper bell」という言葉が登場する辞書は以下の2つであった。
どちらも「vesper」という単語の項目のなかで登場する。
[vesper]n.
『Collins English dictionary』(オンライン)
a bell rung at evening :Also called: vesper bell
[vesper]n.
『Merriam-Webster.com dictionary』
1: a vesper bell
(イ) ユーザー編集型の辞書サイト
・『wordnik』では、「vesper-bell」という項目があった。
[vesper-bell]n.
『wordnik』
The bell that summons to vespers.
・『wiktionary』では、「vesper」という項目のなかで登場する。
[vesper]n.
『wiktionary』
The bell that summons worshipers to vespers; the vesper-bell
このように、「vesper bell」は辞書的には
《「vesper」と異なる意味を持つ言葉》
ではなく、
《「vesper」のいくつかの意味のうちの一部と同じ》
ものとして扱われている。
【余談】
なお、Vocabulary.com は特徴的な説明をしている。
大意を訳すと、
「vesper」は夕方の歌の意。教会の賛美歌であろうと、夕焼けの中で演奏するジャズバンドであろうと、夕方に行われるものならば「vesper」と呼ぶ。
とのことである。
もともと「Vocabulary.com」は「語彙力を鍛える学習サービス・アプリ」という位置づけで2001年にサービスを開始したため、「辞書」としての正確さはそれほど重視されていないだろう。率直に言うと、信頼性が低い。
2. ディテール・イメージの違い
上記のとおり「vesper bell」は”辞書的に”《「vesper」のいくつかの意味のうちの一部と同じ》それでは「vesper」と「vesper bell」はどのように使い分けられるのだろう。
「vesper」の意味の一つでしかないのに、なぜ、わざわざ「vesper bell」という言葉が存在するのか?
正直に言うと、これを明確に説明する文献を見つけることはできなかった。
参考までにchat GPTに聞いてみたところ、こんな回答が返ってきた。
「Vesper」と「Vesper bell」は、ともに晩鐘を意味する言葉ですが、ニュアンスには若干の違いがあります。
「Vesper」は、晩鐘そのものを指す言葉であり、キリスト教の伝統的な時課の一つである晩の祈りを表す場合もあります。また、「Vesper」は単語としても使用されます。
一方、「Vesper bell」は、晩鐘を鳴らす鐘を指す言葉であり、鐘そのものを表します。したがって、「Vesper bell」は熟語として使用されることが一般的で、単独で使用されることはありません。
つまり、「Vesper」は晩鐘そのものを表し、「Vesper bell」は晩鐘を鳴らす鐘を表します。ただし、両者とも晩鐘を意味する言葉であり、用途によって使い分けることができます。
言いたいことはだいたいわかる。
「vesper bell」は「鐘」にスポットを当てた表現である、ということを言っているようだ。
「わざわざ「bell」と付けて強調しているのだから、そういうディテールがあるのだろう」という推測と合致する。
逆に、「vesper」の意味のなかでも「鐘」のことを全く無視したものは、「vesper bell」の意味から外れるということになる。
しかし、
“「Vesper」は、晩鐘そのものを指す言葉であり”
“両者とも晩鐘を意味する言葉であり”
のあたりがわかりづらい。
その含意を確かめるべく、同様の質問を、聞き方や言語を変えて繰り返した。
総合すると、ここで出てくる、《「vesper」と「vesper bell」が共に指すもの》としての”晩鐘そのもの”や”晩鐘”は、「晩に時間を知らせる鐘を鳴らす行為・習慣やその鐘の音」のことであると解釈して良さそうである。
4節 この章のまとめ
ここまでにわかった「vesper」と「vesper bell」の意味・ディテール・イメージ、両者の違いをまとめよう。
1. 「vesper」の持ちうる意味・ディテール・イメージ
まず、「vesper」という言葉は、古代ローマにおいて、「宵の明星の女神ヴェスペル」を由来として、「宵の明星」、「日が沈み宵の明星が出る頃の時間帯」の意味で使われた。
そこには、神話的・神秘的なイメージがあったと読み取ることができる。
また、「夕方頃」を指す言葉たちの中でも「日が沈み、宵の明星が輝く」という空の情景のイメージと結びついている。
つぎに、中世キリスト教社会において、重要な宗教的儀式である「晩課の祈り」と結びつき、「晩課の祈り=晩に祈る行為」「晩課の祈りの合図として鐘を鳴らす行為・習慣・その鐘の音」というディテールが加えられた。
「夕方頃」を指すことは古代ローマ時代と変わらないが、その視線は、宵の明星の輝く空から教会へと移され、「教会で晩課の祈りの行われる時間」というディテールにシフトした。
あわせて、ビジュアル的には教会の伝統ある建物、静謐な雰囲気、サウンド的には大きく重い鐘の音、賛美歌や教会音楽の荘厳な調べといったイメージも付与された。
さらに時を経て、鐘が「時報」の役割を得たことで、「vesper」はキリスト教の祈りを必要不可欠の要素としなくなった。「vesper」を単に「夕方の決まった時間」「夕方の決まった時間を告げる合図として鐘を鳴らす行為・習慣・その鐘の音」と認識する人も増えた。
現代でも生き残っている「vesper」は、キリスト教会のもののほか、伝統として、あるいはノスタルジックな雰囲気の演出に鳴らされているものである。言い換えれば、現代人にとって「vesper」は「時報に鐘が用いられた頃」の情景を想起させるノスタルジックなイメージも持つ。
このように、「vesper」は時代を経て、さまざまな意味・ディテール・イメージが付け足されてきた、非常に多義的な言葉である。
そのため、「vesper」という単語が使われる文脈によって、どの意味・ディテール・イメージを採用しているのか絞り込む必要がある。
2. 「vesper bell」と「vesper」との共通点
「vesper bell」は、「vesper」と同じく「晩に時間を知らせる鐘を鳴らす行為・習慣やその鐘の音」を指す。この鐘が、単に「夕方の時間」の時報のこともあれば、「晩課の祈り」の合図のこともあるのは、「vesper」と同じだ。
そして、「vesper bell」という熟語を構成する「vesper」という単語のもつ上記ディテール・イメージも引き継いでいる。
このように、「vesper bell」と「vesper」の意味・ディテール・イメージは基本的に同じである。
「vesper」と「vesper bell」の相違点
「vesper bell」と「vesper」には違うところもある。
それは、わざわざ「bell」という単語が加えられ、「鐘」にスポットが当てられていることに起因
する。
まず、「vesper bell」にあって「vesper」にはない意味がある。
「夕方の時間を知らせるのに使う(物理的な)鐘」だ。
次に「vesper」にあっても「vesper bell」にはない意味がある。
「宵の明星」には「bell」の要素がまったくないから、「vesper bell」の意味にはなり得ない。
また、「鐘を鳴らす行為・習慣・時間帯」という要素を完全に切り離した、「日が沈み、宵の明星が輝く時間帯」あるいは「晩課の祈りの時間帯」といった「時間帯」そのものを直接指すこともない。
とはいえ、「vepser bell」という言葉で描かれるイメージから「宵の明星」が黒塗りで潰されるわけではないし、「日が沈み、宵の明星が輝いている時間帯」以外の情景は描かれないだろう。そこで「晩課の祈り」が捧げられていても矛盾はしない。言葉によって直接示される「意味」から外れても、「イメージ」の中で、「背景」として生き続けることまで拒絶されるわけではない。
しかし、《あえて「vesper」ではなく「vesper bell」という言葉が使われる》ときに、「vesper bell」のイメージの「主役」あるいは「中心」となることは許されない。
続く2章で、ユニット名『VESPERBELL』の意味・ディテール・ニュアンスの中心を検討するが、この「vesper bell」の意味・ディテール・ニュアンスの理解が下敷きとなる。
「vesper bell」という言葉の持つ意味・ディテール・ニュアンスのなかで、どれがユニット名『VESPERBELL』の中心か絞り込むことになる。
そういう意味では、「宵の明星」、(単なる)「時間帯」は、いわば予選落ちしたということになる。
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