『VESPERBELL』という名前の意味⑤


●1章 「vesper」と「vesper bell」
2章 「vespebell」と『VESPERBELL』
 ┣0節 1章の復習・2章の予習
 ┣1節 「祈り」と『VESPERBELL』の世界観
 ┃┣0. この節でやること
 ┃┣1. VESPERBELL世界での「祈り」の種類  
 ┃┣2.歌詞の中の関連ワード
 ┃3.『廻(めぐ)る』
 ┃┃┣(1)「廻る」の一般的な意味
 ┃┃┣(2)『VERSUS』の『廻る』
 ┃┃┣(3)《『廻る』=輪廻する》からわかること
 ┃┃┣(4)『廻る』を掘り下げる①―『VERSUS』の構造
 ┃┃┣(5)『廻る』を掘り下げる②―「『廻る』世界」
 ┃┃┣(6)『廻る』を掘り下げる③―「『廻る』意味」
 ┃┃┗(7)結論:『廻る』とは
 ┃┃
 ┃┣4. 『記憶』
 ┃┣5. 『運命』・『光』
 ┃┗6. 1節のまとめ
 ┃
 ┗2節 「時間」か「鐘」か

(2章1節3. 『廻る』の続き)

(5)『廻る』を掘り下げる②――「『廻る』世界」

(ア) 話を整理しよう

『VERSUS』のなかでの『廻る』は、
「広義の輪廻」をすること=なんらかの物事の成り行きが、同じ経過を繰り返すこと
「現象的輪廻」をすること=魂が生と死を繰り返すこと
のどちらかを指している。

「『廻る』世界に立ち向かう」の具体的な中身のひとつに「世界を自分の舞台に変えていく」=《『VESPERBELLヨミ・カスカ』の歌声を世界中に届かせる》ことがある。

ここまでがわかっていることだ。

(イ) RISEをヒントにする

まず、『VERSUS』と同じように『RISE』のメロディー・歌詞の構造を表にしておこう。

(story &lyrics: ハル)

『RISE』の歌詞のなかに、答えに繋がりそうなフレーズを見つけた。

「『流れる日々』を同じ顔したワタシが笑ってみたけど」(RISE[1-A1])

「『お決まりの展開』を眺めるだけ」(RISE[2-A1])

どちらも、「同じようなことを繰り返し続ける日々」を指す。
これは広義の輪廻と言える。

そして『RISE』は、「眺めるだけ」の制服姿の「ワタシ」から、「覚悟決めてただ前に進む」舞台衣装に身を包んだ「違う私になる」歌、つまり繰り返しの日々を変える歌である。

これと組み合わせると、

「『廻る』世界」=
《同じようなことが繰り返される、制服姿の2人の送る日々》

「『廻る』世界に立ち向かう」=
ヨミとカスカが、同じことを繰り返すだけの日々をやめて、舞台衣装をまとった『VESPERBELLヨミ・カスカ』として、世界中に歌声を届かせるために歌を紡いでいくこと

という解釈が成り立つ。
これを「世界=日常」説と呼ぼう。

(ウ) 「Chapter」構造をヒントにする

『VESPERBELL』の楽曲のうち「世界」が出てくるものは他にもある。

『EX MACHINA』で「終わる世界」と歌われている。
いきなり「世界」が終わってびっくりするかもしれないが、安心してほしい。

別稿「VESPERBELLオリジナル楽曲たちの関係」で触れたが、EP『EX MACHINA』に収録されている『ignition』『Hurt』『EX MACHINA』の3曲はひとまとまりで[Chapter.1]を構成する。
[Chapter.1]は、《『VESPERBELL』の世界(=大箱)の中にあるひとつの物語世界(=小箱)》である。
『EX MACHINA』で「終わる」のはその物語世界(小箱)である。
つまり、[Chapter.1]の世界が終わったところで、『VESPERBELL』の世界全体(大箱)が終わるわけではない。

では、[Chapter.1]が終わったらどうなるのか?
次の物語[Chapter.2]が始まるはずである。
その[Chapter.2]の物語世界が終わったら[Chapter.3]…と、ある物語世界が始まり、終わり、次の物語世界が始まり…と繰り返されていくだろう。

この、物語「世界」が始まっては終わり、次の物語「世界」が始まるという繰り返し構造は、「広義の輪廻」である。

このように解すると、「『廻る』世界に立ち向かう」とはどのように理解できるだろうか。

[Chapter.1]で「立ち向かう」に関連しそうなことと言えば、戦闘だろう。
ヨミとカスカは、銃やロボットを使って、物理的に敵と戦っていた。
しかし、[Chapter.2]以降も全て、同じように戦争状態であるとは考えられない。
[Chapter]それぞれのシチュエーションごとに、ヨミとカスカが行うべきミッションの具体的に指す内容は変わりそうだ。

もう少し広い視点から見てみよう。

『RISE』と『VERSUS』の2曲は、[Chapter.0]に所属する。
この[Chapter.0]が、《[Chapter.1]→[Chapter.2]→[Chapter.3]…》という物語世界の繰り返しを納める大きな箱=『VESPERBELL』の世界の全体像である。
[Chapter.0]目線で見ると、ヨミとカスカは、[Chapter]を一つ終えて、また次の[Chapter]に移行している。
このように、《[Chapter]を乗り越えて次の[Chapter]に取りかかること》というメタな構造を、次から次へと生まれる物語世界に「立ち向かう」と表現している、と解釈することもできる。

こちらの見方のほうが、「『廻る』世界」に立ち向かう、という表現に即したものであろう。

ここでの『廻る』は、まずは「物語世界」が繰り返されていく「広義の輪廻」を指すが、同時に、ヨミとカスカがそれぞれの物語のなかで生を受け、次の物語でまた別の生を送る、という意味では「現象的輪廻」の側面も有する。

これを「世界=Chapter世界」説と呼ぼう。

(6)『廻る』を掘り下げる③――「『廻る』意味」

「『廻る』意味」は、光を辿って扉を選んだ先にあるもので、ヨミとカスカが求めるものだ。
ここまではわかっている。

「『廻る』意味を求めて光を辿れ」は、「誰が/何が」「何を」廻っているのだろう。

光を辿った先にあるのは、ヨミとカスカの《二人が一緒に、世界を自分の舞台へ変えていく道程》だ。
そして、『廻る』は現象的輪廻・広義の輪廻のどちらかを意味する。

まずは、「現象的輪廻」、すなわち「人の生命が、誕生と死亡を繰り返している」ほうの可能性を検討しよう。

『RISE』『VERSUS』に登場する、現象的輪廻の対象となる「人」はカスカとヨミだ。

「あなたと夢を繋ぐ場所」『VERSUS』[1-A1]
という歌詞で「あなた」が出てくる。
この「あなた」には解釈の余地がある。
《一緒に歌っている相方(ヨミ・カスカ)》のことを指すと考えるのが自然だが、《聴き手である誰か》のことを指すと読めなくもない。
しかし、「あなた」が《聴き手である誰か》を指すとしても「《聴き手である誰か》が生まれ変わりを繰り返していることの意味を《ヨミとカスカが》求め」ているとは考えられない。
結局、『廻る』が「現象的輪廻」だとしたら、生まれ変わりを繰り返しているのはヨミとカスカ以外に考えられない。

すると、ヨミとカスカは《二人が一緒に、世界を自分の舞台へ変えていく道程》にたどり着くために、生まれ変わりを繰り返していたんだ、という話になりそうだ。

次に、「広義の輪廻」の可能性、つまり、繰り返しているのが《なんらかの物事》だった場合を考えよう。
《二人が一緒に、世界を自分の舞台へ変えていく道程》にたどり着くために、《なんらかの物事》が同じ成り行きを繰り返していた…これに当てはまるような《なんらかの物事》はあるだろうか?
それが繰り返されることによって《二人が一緒に、世界を自分の舞台に変えていく道程》が生まれる可能性があるもの。
それは「世界」自体だろう。
「世界」が繰り返されるなかで、《自分の舞台に変えていく道程が存在する世界》が訪れる・現れるというわけだ。

『VERSUS』でカスカの前に並んでいた扉は、複数ある未来の可能性であると述べた。
複数ある未来を、枝分かれして分岐するものとして捉えるのは「平行世界」的な世界観だ。
これは、「世界」が複数あるという考え方に馴染む

「世界」が繰り返していると考えても、《二人が生と死を繰り返す》という点では「現象的輪廻」とそれほど大きくは変わらない。
平行世界それぞれにヨミとカスカは存在しており、世界ごとの人生を二人は何回も繰り返しているといえるからだ。

ただし、異なる点もある。
『廻る』を「現象的輪廻」”のみ”と捉えると、「世界」は一つであり、その世界の中で二人は直列的に生まれ変わりを繰り返していることになる。
それに対して「世界」そのものが生まれ・滅びを繰り返していると捉えると、二人のそれぞれの世界での生と死は「別世界のこと」として並列的な関係にある。
[Chapter.1][Chapter.2]と番号が振られるとしても、[Chapter.1]の世界が滅びたあとの時空間に連続して[Chapter.2]の世界が生まれたというわけではないということだ。

(7)『廻る』を掘り下げる④――まとめ

「『廻る』世界」で繰り返しているものは、

(A)「世界=日常」説
 :同じようなことが繰り返される、制服姿の2人の送る日々
(B)「世界=Chapter世界」説
 :ヨミとカスカが、物語世界を乗り越えて次の物語世界に挑む、という構造

のどちらかである。

「『廻る』意味」で繰り返しているものは
(ⅰ)「現象的輪廻」説
 :ヨミとカスカの生命
(ⅱ)「広義の輪廻」説
 :(ヨミとカスカを含めた)世界

のどちらかである。

「『廻る』世界」と「『廻る』意味」の『廻る』が同じことを指すのであれば、(B)と(ⅱ)の組み合わせしか有り得ない。

したがって、『VESPERBELL』における『廻る』とは、世界が「広義の輪廻」していること、つまり、

世界は平行世界的に存在・分岐・展開している
ヨミとカスカも、それぞれの世界ごとの道程を歩む
・これをメタなヨミ・カスカ視点から捉えると、「二人は、ある世界での道程を終え、また次の世界に取り掛かる」ことを繰り返していると言える

ということを意味すると解釈すべきである。

…といったところでこの記事はここまで。
(その⑥)に続く。

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