1章 「vesper」と「vesper bell」
2章 「vespebell」と『VESPERBELL』
┣0節 1章の復習・2章の予習
┣1節 「祈り」と『VESPERBELL』の世界観
┃┣0. この節でやること
┃┣1. VESPERBELL世界での「祈り」の種類
┃┣2.歌詞の中の関連ワード
┃┣3.『廻(めぐ)る』
┃┣4. 『記憶』
┃┣5. 『運命』・『光』
┃┗6. 1節のまとめ
┃
┗2節 「時間」か「鐘」か
(2章1節の続き)
5. 『運命』・『光』
『VESPERBELL』において『運命』はどのように捉えられているだろうか。
(1)RISE
「断ち切って運命が示す明日を」
(RISE[2-S1])
ここでは、『運命』は断ち切ることができるもの、裏を返せば、断ち切らないかぎりその通りになるものと捉えられている。
なにもしなければ「流れる日々」「お決まりの展開」(=『運命』)が繰り返されていくが、その未来は変える(断ち切る)ことができる、ということだろう。
「嗚呼 鳴り出した鐘が導く運命」
(RISE[1-S2])
こちらでは意味が異なりそうだ。
RISEのなかで二人の将来は、「ワタシ」のまま「流れる日々」「お決まりの展開」を繰り返す道、「違う私」になって「心が向かう明日」「夢」に向かって駆けていく道、二つのルートが提示されている。
鐘が導いているのは後者のほうであろう。
ここでの『運命』は、導きに従って主体的に選ぶべき未来、と言い換えることができる。
このように、『RISE』のなかで『運命』という言葉は、2種類の(ある種真逆の)成り行きを指している。
(2)VERSUS
「『運命』光る刹那」
(VERSUS[C-1])
という歌詞が登場するが、それだけではよくわからない。
続く歌詞をみると「選べ」「光を辿れ」「その手で扉を開いて」とある。
MVでは、3:06でカスカの前にたくさんの扉が並んでいる。
3:18でカスカが一つの扉を選んで開くと、そこから強い光が差し込んでくる。
未来はいくつかの扉(選択肢)から選ぶことができるもの、その選択を導くのが『光』であり、その先にあるのが『運命』であると読み取ることができる。
RISEに出てくる『運命』のうち「鳴り出した鐘が導く『運命』」のほうと同じだ。
また、『光』が未来の選択を導くという点も『RISE』と共通している。
その『光』は、RISEでは
「『光』溢れる記憶」
(RISE[2-S2])
と、『記憶』からもたらされるものである。
『記憶』が目指すべき未来を示す。
それを『光』と表現しているのだろう。
そして、その『光』の続く道が『運命』である、という関係だ。
(3)まとめ
(ア) RISEとVERSUSに共通する『運命』
RISEとVERSUSに共通する『運命』という言葉は、
《『光』の導きに従って主体的に選ぶべき未来》
を指す。
『光』は『記憶』とつながるもの、『記憶』が導く道筋を示すものである。
ここで注目すべきは、『運命』はあくまで《二人が主体的に選ぶ必要があるもの》であって、《必然的にその通りになるようプログラムされたもの》ではないということだ。
《必然的にその通りになるようプログラムされた運命がある》という考え方は、必ず《プログラムした者》の存在に行き当たる。
おおよその場合、創造主としての神だ。
たとえばキリスト教やイスラム教では、《運命は唯一神によって予定されたものであり変えることができない》と考えられている。
そして、そのような者にこそ人は「祈る」のである。
創造主としての神の存在に依拠せずとも、
《ビッグバンのときに与えられた初期値と物理法則によって、すべての物事の成り行きは既に決定されている》
と考える古典力学的な因果的決定論もある。
有名な「ラプラスの悪魔」は、この因果的決定論のいわば擬人化だ。
しかし、VESPERBELLの世界では、そのような絶対的な《プログラムした者》は否定されている。
《人間が進むべき将来を決める》という大きな選択でさえ、その人間自らの意志で選ぶのだ。
そして、目指すべき未来を選んだヨミとカスカの二人は、それを実現するために、走る。鳴らす。
選んだ未来は、必然的にもたらされるものではない。自らの努力によって初めて掴み取ることができるものである。
VERSUSで「挑む」と表現されている以上、達成は約束されたものではない。
成功の未来しか存在しない挑戦は、挑戦とは呼べないからだ。
このように、『運命』は自らの意志で選び、自らの努力によって達成する未来だ。
(イ) 「断ち切って『運命』が示す明日を」のほうの位置付け
先述のとおり、RISEでは、『運命』という言葉は違う意味でも使われている。
『運命』が示す明日 = 「流れる日々」「お決まりの展開」の繰り返し。
何もしなければそのとおりになる、しかし「断ち切る」=変えることができるもの。
さて、こちらの『運命』はどのように取り扱うべきであろうか。
『RISE』『VERSUS』に共通する(ア) こそが『VESPERBELL』世界の運命観であると考えるべきであろう。
ここで「断ち切って『運命』が示す明日を」という歌詞は、《本来・厳密には運命ではないもの》を便宜上そう表現しているだけだと考える。
逆に言うと、『運命』という言葉について、それほど徹底的なこだわりがないとも言える。
…といったところでこの記事はおしまい。
(その⑧)に続く。
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