切り抜き動画と著作権【Part 2】{後編}二次創作ガイドラインの位置付け

【3】-2 ガイドラインに違反するとRK Musicの著作権を侵害する場合が多い

どれか1つにでも反したら「著作権侵害」?

RK Musicはガイドラインで複数の事項を定めています。

ガイドラインの条項のどれか1つにでも違反したら著作権侵害になるのでしょうか?

一般論

一般的に、利用許諾に際して定めた条項のどれか1つにでも違反したら、必ず著作権侵害になるとは考えられていません

たとえば、出版社が作家さんに印税の支払いを怠ったからといって、即座にその本の複製・販売が著作権侵害とはなりません。
印税の不払を理由として作家さんが出版社との出版契約(=利用許諾)を打ち切って
はじめて、それ以降の複製・販売が著作権侵害になると考えられています。

裁判例の情報

「キャロル・ラストライブ」事件 第一審 東京地判平成17年3月15日 平成15(ワ)3184)

事件の概要

「キャロル」は、矢沢永吉氏などがメンバーのロックバンドです。
1975年4月に解散ライブを行い、解散しました。
そこから以下のような経緯を辿ります。

(1)解散ドキュメンタリーのTV放送
この解散ライブ前後の様子を、当時「キャロル」が所属していたレーベルが、合意のもと撮影していました。
同年7月、この映像を映像ディレクターA氏が編集したドキュメンタリー番組「グッドバイ・キャロル」が放送されました。

(2)ドキュメンタリーのビデオ化
1984年、レーベルが、上の番組を再編集したビデオ「燃え尽きるキャロル・ラスト・ライブ」を販売しました。
この販売にあたっては、A氏とレーベルとの間で、有償の利用許諾契約が結ばれています。

(3)ビデオのDVD化
2003年、レーベルが、上のビデオをDVD化して再販売しました。

(4)裁判の始まり
A氏が、
・DVDの販売の差止め
・ビデオ・DVDによる著作権侵害に対する損害賠償請求
を求めて訴えを提起しました。

A氏がこのような請求をした背景には、

  • 矢沢永吉氏とA氏にはもともと長い交友関係があった
  • 解散ライブのドキュメンタリー番組制作について、矢沢永吉氏は乗り気ではなかったが、「他ならぬA氏が作るというのなら信頼する」と撮影・制作を許可した
  • ビデオの販売が開始された後で、矢沢永吉氏がビデオやDVDの販売を望まないという姿勢に傾いた
  • 矢沢永吉氏の意を汲んで、A氏が差止めを求めた

…という事情があったそうです。
(詳細は裁判例のなかで認定されています。)

争いとなったこと

ドキュメンタリー番組の監督であるA氏は、

主張1 ビデオ化は有償で利用許諾したのに利用料が支払われていないから著作権侵害である
主張2 DVD化は利用許諾の対象外であるから著作権侵害である

と主張しました。

裁判所の判断

主張1について

  • 対価の支払は、著作権法63条2項が「その許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において」利用できると定める「条件」には当たらない
  • 利用者が対価を支払わない場合であっても,その利用が著作権侵害になるわけではない

…として、たとえ利用料の未払という利用許諾契約に定められた義務の違反があっても、ビデオ化についての利用許諾の効力自体はまだ有効なままであるので、著作権侵害ではないと判断しました。

主張2について

  • 「利用方法及び条件」には,例えば,文庫本としての出版とかカセットテープへの録音等の利用形態も含まれる
  • 「利用方法及び条件」は著作権者が一方的に付することができるものである
  • 許諾によって得られる利用の範囲は,取引慣習や社会通念等を前提にして,著作権者の許諾の意思表示を合理的に解釈して判断すべきである
  • 利用許諾契約の当時、A氏はDVD化まで想定していなかったと解釈するのが合理的である

…として、そもそもDVD化は利用許諾契約の内容には入ってないから、著作権侵害であると判断しました。

利用規約の条項のなかにも、違反した場合に著作権侵害になる条項とならない条項が存在する、ということになります。

それでは、特定の条項がどちらにあたるか、何によって決まるのでしょうか?
上の裁判例は「なぜその条項に違反しても著作権侵害にならないのか」の理由を示していません。

学説には、

  • 「利用権の範囲の合意」すなわち「利用許諾に不可欠な合意」か、
    そのことに合意がなくても利用許諾が成立する「利用許諾に付随して行われる任意の合意」か(島並ほか)
    (たとえば、利用料について特段の合意がなくても利用許諾は成立するので、利用料についての定めは「不可欠な合意」ではない、と説明しています)
  • 当該契約違反が支分権の本質的内容に触れるか否か(作花 P.477)、
  • 著作権法が著作者に強力な権利を付与した趣旨に合致するか、すなわち、利用者の違反行為が、契約の有無を離れて観察した際に、著作権侵害を問うべき内容か(松田 前掲P.170)
    (たとえば、『引用』のような著作権法上許諾がなくても認められる利用行為を、契約によって特別に制限するような規定は、その強制に著作権法が加担すべきではないから著作権侵害と認めるべきではない、と説明しています)

…などの基準を提示するものがあります。
ちょっとわかりませんね?

どれも、その条項が定めている事柄や違反行為の性質によって客観的に定まると考えており、当事者の意思によって決まるとは考えてなさそうです。

ここからは私なりの解釈です。

複製権を例に考えます。
ある著作物について、本来であれば、利用者はどんな形だろうといくつだろうと複製できません。
しかし、利用許諾によって、本来できないはずの複製行為を特別に行ってもよい範囲(方法・態様)が創り出されます。
これが利用許諾の本質的な効果です。
この許諾の範囲外の行為であれば、本来どおり、できない(著作権侵害)ままです。
このような「例外的にできるようになる利用行為そのものの方法・態様(=範囲)」を画定する条項が「利用許諾に不可欠な合意」であり、その範囲を逸脱する形で行われる利用行為が「支分権の本質的内容に触れる」違反であると言えるのではないでしょうか。

利用料の支払いは複製行為そのものの方法・態様を画定するものではなく、複製行為をするにあたって別途行う手続の問題です。
そのため「不可欠な合意」ではないし、その手続違反は複製権の本質的内容に触れない、ということになります。

100枚まで複製して良いよ」とか「縮小コピーはダメ」という規定は、
「101枚目の複製行為はできない
「等倍か拡大コピーならできるが、縮小コピー行為はできない
という利用行為そのものの方法・態様を画定する条項です。
そのため「不可欠な合意」であり、これに違反する複製行為は複製権の本質的内容に触れる違反だ、ということになります。

RK Musicのガイドラインの場合は

まずはガイドラインを見てみよう

RK Musicの二次創作ガイドラインは、

  1. 二次創作全般の規定
  2. 「切り抜き」のみに適用される規定
  3. 同人活動のみに適用される規定

…という順番で書かれています。
切り抜き動画には、このうち
1. 二次創作全般の規定
2. 「切り抜き」のみに適用される規定
…の2つが適用されます。

この2つの規定のなかから、禁止事項を定める条項をから引用します(RK Music公式サイト)。

二次創作全般の規定
■禁止事項

「二次創作」に関して、以下に該当する内容は禁止といたします。

  • 当事務所、及び所属タレントが発表するコンテンツをそのまま利用し、単なる改変の域を出ず著しく創作性に欠けるもの
  • 公式と詐称、または公式と誤解・誤認されうるもの
  • 所属タレントが不快と感じる創作物、あるいは活動
  • 適用される法令、規則や、各利用プラットフォームの規約その他規定を遵守していないと思われるもの
  • 当社の登録商標を二次創作に利用する行為
  • 二次利用元コンテンツそのものを自己の著作物として喧伝すること(各利用プラットフォームの自己著作物識別機能に登録することも含む)
  • 公序良俗に反するもの、反社会的なもの
  • 特定の思想・信条や宗教的、政治的な内容を含むもの
  • 当事務所、及び所属タレントのイメージを著しく損なうもの
  • 第三者の名誉・品位等を傷つけるもの、第三者の権利を侵害するもの
  • その他当社が不適切と判断するもの

禁止事項に抵触、あるいはその疑いがある二次的著作物は、著作権侵害行為の対象として何らかの対処を行う場合があります。

切り抜き固有の規定
■「切り抜き」について

「切り抜き」に関して、以下に定める内容は禁止とさせて頂きます。

  • 事実に対して恣意的に誤解を生じさせるよう誘導する内容
  • 誤情報または虚偽情報の流布に繋がる内容
  • 当社または所属タレントの名誉や信用の毀損に繋がる行為
  • 「切り抜き動画」のサムネイルが、上記の様な問題を助長する様な内容になっているもの
  • YouTubeメンバーシップ限定配信や、チケット購入の上鑑賞できる動画コンテンツなど、アーカイブが無料で閲覧できないコンテンツの切り抜き
  • 動画内あるいは概要欄に「切り抜き禁止」が個別に明示されている配信アーカイブ、及び動画
  • その他、当社が不適切と認める内容

禁止事項に抵触、あるいはその疑いがある「切り抜き」は、著作権侵害行為の対象として何らかの対処を行う場合があります。

条項を分類して考える

上の条項は、以下の4つのグループに分類できそうです。

グループA 二次創作物の内容に注目する条項
グループB 元となるコンテンツに注目する条項
グループC A・Bに該当しない個別的な条項
グループD 包括的な条項

以下、各グループごとに「条項に違反すると著作権侵害となるか?」検討します。

グループA 二次創作物の内容に注目する条項
全体ガイドライン
  • 当事務所、及び所属タレントが発表するコンテンツをそのまま利用し、単なる改変の域を出ず著しく創作性に欠けるもの
  • 公式と詐称、または公式と誤解・誤認されうるもの
  • 公序良俗に反するもの、反社会的なもの
  • 特定の思想・信条や宗教的、政治的な内容を含むもの
  • 当事務所、及び所属タレントのイメージを著しく損なうもの
  • 第三者の名誉・品位等を傷つけるもの、第三者の権利を侵害するもの
切り抜きガイドライン
  • 事実に対して恣意的に誤解を生じさせるよう誘導する内容
  • 誤情報または虚偽情報の流布に繋がる内容
  • 当社または所属タレントの名誉や信用の毀損に繋がる行為
  • 「切り抜き動画」のサムネイルが、上記の様な問題を助長する様な内容になっているもの

これらの規定は、まさに「どんな翻案行為を行って(=翻案物を作成して)良いか」という範囲を画定するものです。

したがって、グループAの条項に違反する内容の切り抜き動画は、著作権侵害となります

グループB 二次創作の元コンテンツに注目する条項
切り抜きガイドライン
  • YouTubeメンバーシップ限定配信や、チケット購入の上鑑賞できる動画コンテンツなど、アーカイブが無料で閲覧できないコンテンツの切り抜き
  • 動画内あるいは概要欄に「切り抜き禁止」が個別に明示されている配信アーカイブ、及び動画

著作権は1本の動画ごとに存在します。
「こういうアーカイブ動画から切り抜き動画を作ってはいけません」という条項は、実際には「そのアーカイブ動画については利用許諾を出しません」と言っています。

この条項で定められた動画には、そもそも利用許諾は存在しません。

ですので、グループBの条項に違反する切り抜き動画は、当然、RK Musicの著作権侵害となります。

グループC A,Bに該当しない、具体的な条項
■全体ガイドライン
  • 二次利用元コンテンツそのものを自己の著作物として喧伝すること(各利用プラットフォームの自己著作物識別機能に登録することも含む)
  • 適用される法令、規則や、各利用プラットフォームの規約その他規定を遵守していないと思われるもの
「喧伝すること」

この条項は、どのような二次創作物を作るかではなく、作った二次創作物について別途行う喧伝行動を禁止するものです。
利用行為そのものの方法・態様を規制するものではありません。
したがって、この条項に違反して「自己の著作物と喧伝」しても、そのことのみによって切り抜き動画著作権を侵害することにはなりません。

もっとも、「他人の著作物を自己のものと喧伝する行為」それ自体が、その著作物の著作権・著作者人格権の侵害となります。
ですので、「喧伝する行為の」差止や損害賠償を請求されることは十分にあり得ます。

「法令・規則・プラットフォームの規約その他規定を遵守していないと思われる」

切り抜き動画に関する「プラットフォームの規約その他規定」とは、
YouTubeの

の3つです。

法令・規則・プラットフォームの規定には、さまざまなものがあります。
投稿する動画の内容についての規定もあれば、手続的な規定など、動画に直接関係ない規定もあります。

「法令・規則・プラットフォームの規定を遵守していないと思われる動画」を禁止する、というこの条項によって、RK Musicのガイドラインの中に「法令・規則・プラットフォームの規定」が輸入されていると評価できます。
ですので、これらの規定の違反についても、他の禁止条項の違反と同じ基準に従って著作権侵害となるかどうか判断されます。
具体的には、その規定が動画の投稿行為(および動画の内容)そのものの方法・態様を画定するものであれば、その規定への違反は著作権侵害となります。

なお、遵守しない「と思われる」もの、という規定になっています。

これは、裁判所やプラットフォーム運営者によって「この動画は法令・規則・プラットフォームの規定に違反している」という判断が実際に下されなくとも客観的にこれらに違反すると認められるものであれば、利用許諾の対象から除外する、という趣旨であると思います。

グループD 包括的な条項
全体ガイドライン
  • その他当社が不適切と判断するもの
切り抜きガイドライン
  • その他、当社が不適切と認める内容
この条項をそのまま読んで良いのか?

悩ましいのは、これらの条項の位置付けです。

上で説明したとおり、ある条項に違反する利用行為が著作権侵害となるか否かは、その条項の定めている事柄や、その条項に違反する行為の性質によって定まります。

そのため、まずはこの条項の定めている事柄を特定する必要があります。

「当社が不適切と判断する」という条件をそのまま読むと、
どの点が・なぜ不適切か限定されておらず、しかも
不適切かどうかはRK Musicが自由に判断できる
…ため、RK Musicの意志次第でどんな場面にも自由に適用できてしまいそうです。

極端なことを言うと、この条項を根拠に
「お前のことが気に入らない、お前がVESPERBELLの二次創作を作るなんて不適切だ!」
ということも可能かもしれません。

「そんなことせんやろ」と思うかもしれません。
しかし、たとえば、他VTuber/singerのガイドラインに違反する切り抜きを作ることで再生数を稼ぐ炎上商法を繰り返して、それらの事務所から出禁を喰らいまくってる悪名高き人が「VESPERBELLでも一儲けしますか^^」と入ってきたら、実際に他のガイドラインに該当するような違反をする前に、防衛措置としてこの条項を使いたくなるかもしれません。

この条項をフリーハンドに適用できるとなると、実質的にはRK Musicが特定の切り抜き動画について自由に利用許諾を取り消すことができるのと同じです。
ですので、切り抜きを作成できる範囲を定めた条項ではなく「RK Musicに許諾を自由に取り消すことができる権利を留保した規定」であると評価することもできます。

定められた条件・範囲に従っていれば著作権侵害にならず・削除等の請求を受けない
…という範囲を利用行為に先立って画定することが、F利用規約によって利用許諾を出す意義です。
それなのに、著作権者が無制限に、事後的に利用許諾を取り消し、削除等を請求できてしまうのでは、その利用規約に存在意義はありません
(RK Musicの気分次第でいつでも削除を請求できるという実態だけ見れば、単に著作権侵害を「黙認・放置」している状態と変わらないと言えるでしょう。)
そもそも「利用許諾を出した」と評価できるかも怪しいところです。

一般に、取消権付きで有効な法律関係は「取り消されるまでは有効」である点に意義があるとされます。
それを裏付けるのは

① 取消権の範囲や行使できる期間は法律上限定されていることが多い
 ➥取消権の範囲外の(=多くの)部分については法律関係が安定している

② 取消の効力は(多くの場合)相手方に意思表示が到達してはじめて発生する
 ➥「知らないうちに取り消されていた」という不意打ちは起きない

…という点です。
この2点について「その他当社が不適切と判断」条項を検討します。

① について
・不適切と判断されるまでは許諾が有効であると扱って良いかどうか、確実ではない
・「不適切と判断」する理由や時期について限定がない
➥不安定な領域が大きい

② について
(少なくとも「当社が~判断」という文言上は)意思表示が要件とされていない
➥「当社が不適切と判断」では、
 ・いつ判断されたか(=いつから自分の動画は著作権侵害となったか)
 ・そもそも自分の動画が不適切と判断されているかどうか
 …動画作成者は知ることができない

以上の2点を踏まえると、「その他当社が不適切と判断」条項を無制限に適用できる利用許諾は、「取消権付きで有効」な法律関係の持つ存在意義すら怪しいということになります。
存在意義もない規約を策定したところで「利用許諾を出した」と法的に評価できないのではないでしょうか。

上のような利用許諾に、それでも何らかの意味を見出すとしたら、

  • RK Musicに不適切と判断されるまでは、自分の切り抜きを「許諾のある翻案」として考えても責められない
  • そのため、作成・投稿することについて事前に個別の許諾を得る手続を取らなかったとしても責められない

…という点でしょうか。
この「責められない」ことは、RK Musicから損害賠償を請求された際に、二次創作者に過失がないと主張する根拠の1つにはなるような気がします。
(著作権侵害について損害賠償を請求するには、侵害した人に故意または過失が必要だ…という話は、【Part 3】{中編}で説明します。)

ですので、

  • 利用規約による利用許諾という方式が当然に持つ性格
  • RK Music自身が(黙認・放置や個別の利用許諾という方式によらず)二次創作ガイドラインを策定した目的このガイドラインの存在意義

…を合理的に解釈すると、この条項によってRK Musicが「消したい」と思う動画を思いのままにガイドライン違反にすることができるわけではなく、この条項の違反となるものの範囲は一定程度限定されるはずです。

どのように限定して読むか

では、具体的には、どのように限定されるのでしょうか?

残念ながら、類似の事案が争われた裁判例や、包括条項の解釈について触れている書籍などはみつかりませんでした。
そのため、以下は、あくまで私の考えに過ぎないとご理解のうえ読んでください。

① 特定の「内容」の切り抜き動画を禁止する条項である  

まず、ヒントとなるのは、切り抜きガイドラインの

その他、当社が不適切と認める内容

この「内容」という文言です。

「内容」とは「切り抜き動画の」内容のことでしょうから、この条項は、切り抜き動画の内容を基準に許諾するかしないかを定めた条項であるはずです。

一方、全体ガイドラインは

その他当社が不適切と判断するもの

と定められています。
全体ガイドラインの禁止条項は、それぞれの条項の文末で「~もの」「~こと」「~行為」という言葉を使い分けています。
そして、「~もの」と定められている条項は、いずれも創作「物」の内容・性質に着目した規定です。ですので、全体ガイドラインも、切り抜きガイドラインと同様に、特定の「内容」を禁止する条項であると解釈することができます。

②「不適切」な内容の切り抜き動画を禁止する条項である 

その他、当社が不適切と認める内容 

これは明白ですね。

ですが、ただ内容が「不適切」とだけ言われても、何もわかりません。
何の視点・観点から不適切だと判断するのか特定する必要があります。

③ 視聴者に、VESPERBELL・RK Musicの望まないイメージを持たせる被害・損害を与えるという点で「不適切」である

ここで着目するのは、

その他、当社が不適切と認める内容 

この「その他」の部分です。

この条項は、個別規定で定められなかったものをカバーするための条項でしょう。
ですので、「その他」「不適切」な内容とは、「動画の内容についての個別規定に共通して言えるような不適切さ」を持っているものであると読めます。

「その他」と「その他の」

法律用語では、「その他」「その他の」という言葉は、異なった意味を持ちます。

「A,B,その他C」と規定されているときは、A・B・Cは同列の横並びな関係です。

例をもとに考えましょう。
「その他」が法律でよく使われるパターンは、「その他○○省の定めるもの」です。

たとえば、「りんご、みかん、その他農林水産省の定めるもの」みたいな規定です。
この場合、農林水産省の定める省令には「バナナ、パイナップル」のように定められています。
このバナナ、パイナップルを代入すると、
「りんご、みかん、バナナ、パイナップル」と並びます。

一方、「A,B,その他C」と規定されているときは、Cは、AとBを含む、一段階抽象的な概念です。
たとえば、「犬、猫、その他の哺乳類」というように、犬、猫が、哺乳類に含まれるもの、哺乳類の例という関係にあります。

「その他」当社が不適切と判断するもの・・・?

さて、RK Musicの規定を考えましょう。

その他、当社が不適切と認める内容 

という規定の前には、

  • 事実に対して恣意的に誤解を生じさせるよう誘導する内容
  • 誤情報または虚偽情報の流布に繋がる内容
  • 当社または所属タレントの名誉や信用の毀損に繋がる行為
  • 「切り抜き動画」のサムネイルが、上記の様な問題を助長する様な内容になっているもの

・・・という規定が並んでいます。

もし、RK Musicが「その他」という文言を法律用語と同じ意味で使っているとしたら、

  • 事実に対して恣意的に誤解を生じさせるよう誘導する内容
  • 誤情報または虚偽情報の流布に繋がる内容
  • 当社または所属タレントの名誉や信用の毀損に繋がる行為

と「当社が不適切と認める内容」とは並列関係ということになります。

ですが、それはおかしいです。
 ・誤情報または虚偽情報の流布に繋がる
 ・事実に対して恣意的に誤解を生じさせるよう誘導する
 と
 ・不適切と当社が判断
 は、抽象度の概念が異なり、対等な関係ではありません。
 また、上の2つについてもRK Musicは「不適切だと判断」するでしょう。

 これを上の果物の例を使って説明すると、
 「りんご、みかん、果物」と並べているのと同じです。

 RK Musicは、「その他の当社が不適切と判断するもの」と定めたほうが良かったでしょう。

改めて、ガイドラインの条項のうち、内容に着目したものを見てみましょう。

全体ガイドライン
  • 当事務所、及び所属タレントが発表するコンテンツをそのまま利用し、単なる改変の域を出ず著しく創作性に欠けるもの
  • 公式と詐称、または公式と誤解・誤認されうるもの
  • 公序良俗に反するもの、反社会的なもの
  • 特定の思想・信条や宗教的、政治的な内容を含むもの
  • 当事務所、及び所属タレントのイメージを著しく損なうもの
  • 第三者の名誉・品位等を傷つけるもの、第三者の権利を侵害するもの
切り抜きガイドライン
  • 事実に対して恣意的に誤解を生じさせるよう誘導する内容
  • 誤情報または虚偽情報の流布に繋がる内容
  • 当社または所属タレントの名誉や信用の毀損に繋がる行為
  • 「切り抜き動画」のサムネイルが、上記の様な問題を助長する様な内容になっているもの

まず思いつくのは、「一般論として道徳的に良くない内容」ということです。

  • 公序良俗に反するもの、反社会的なもの
  • 事実に対して恣意的に誤解を生じさせるよう誘導する内容
  • 誤情報または虚偽情報の流布に繋がる内容

は、まさにこれに該当しそうです。

しかし、

  • 特定の思想・信条や宗教的、政治的な内容を含むもの

…について、特定の思想等の内容が「道徳的に良くない」とは限りません。
ですので、「道徳的に良くないこと」は個別条項に共通の内容とは言えず、判断基準として採用できません。

この条項が「その思想等の内容が正しいか」を問題とせず、たとえその内容が正しいものであっても切り抜き動画の内容に入れることを禁止している点がポイントです。

この条項は、「切り抜き動画のなかに、特定の(=普遍的ではない・賛否のわかれる)思想信条などが登場することによって、視聴者の脳内でその思想信条とVESPERBELLが結び付けられること」自体を忌避しているものではないでしょうか。

このように理解すると、

  • 公式と詐称、または公式と誤解・誤認されうるもの

という条項と整合的に理解することができます。

この条項は「VESPERBELLにどんな内容が結びつけられそうか」という動画の内容面は問題にしていません。

「切り抜き動画の内容」を「RK MusicやVESPERBELL自身が発信している」と受け取られると、その内容とVESPERBELLが強く結びつけられます。
この条項は「RK MusicやVESPERBELL自身が発信している」と誤解されることを防ぎ、それによって「自身が発信していないし結びつけられたくないイメージ」とVESPERBELLが結びつけられることを間接的に阻止しようとしています。
「結びつけられたくない内容・イメージかVESPERBELLを保護する」という点で、「特定の思想・信条~を含むもの」という条項と同じ目的であると言えます。

この「結びつけられたくない内容・イメージからVESPERBELLを保護する」という視点で他の条項を見ると、

  • 当事務所、及び所属タレントのイメージを著しく損なうもの
  • 当社または所属タレントの名誉や信用の毀損に繋がる行為

という条項はまさに同じ趣旨です。

また、

  • 公序良俗に反する
  • 反社会的

とは、彼らが望まないイメージのうちの一つを明確化するものであり、

  • 事実に対して恣意的に誤解を生じさせる
  • 誤情報または虚偽情報の流布

も、(そのこと自体が良くないことであるのはもちろんですが)RK MusicやVESPERBELLが誤解を助長した」という望まないイメージを持たれることから自身を保護するものです。

以上により、切り抜き動画の内容に着目する個別条項に共通するのは、

動画の視聴者が、RKMusicおよびVESPERBELL、ヨミ・カスカについて、彼ら自身の望まないイメージを形成することを防ぐ

という目的であると言えます。
したがって、これらの個別条項を一般化している包括的条項が禁止している「不適切」な「内容」とは

動画の視聴者が、RKMusicおよびVESPERBELL、ヨミ・カスカについて、彼ら自身の望まないイメージを持ってしまうような内容

であると解釈することができます。

なお、

  • 当事務所、及び所属タレントが発表するコンテンツをそのまま利用し、単なる改変の域を出ず著しく創作性に欠けるもの

…という規定だけは、上記の「望まないイメージからの保護」を目指す規定であるとは理解できません。

この条項は、二次創作ガイドラインの冒頭に定められている

二次創作ガイドラインの利用許諾の対象はあくまで翻案であり、複製ではないこと

を改めて念押しする規定であろうと解されます。
(この点については、【Part 4】RK Musicの二次創作ガイドラインを読もう で説明します。)

さらに議論を進め、「どのようなイメージを」「どれくらい結びつけられる可能性がある」場合にこの条項に違反し・著作権侵害となるかは、【Part 4】で検討していきます。

また、包括的条項の文言のなかの

その他、当社が不適切と認める内容

という部分をどう解釈すべきかの点は、下の +【補足】こんな曖昧な条項、けしからん?―RK Musicの立場から考えると・・・ と【Part 4】に譲ります。

グループDの結論

グループDの包括的条項は「切り抜き動画が視聴者にどう受け取られる内容か」に着目して「そのような内容に翻案してはならない」と、切り抜き動画制作者が行うことのできる翻案行為の範囲を画定するものです。

したがって、このように読む限りで、グループDの条項に違反する翻案は著作権侵害となると言えます。

逆に、仮にこのように限定して解釈せず、「どのようなものでもRK Musicがそう感じる限りこの条項に違反する」と理解すると、この条項に違反したからといって必ずしも著作権侵害となりません。

利用者にとっては、よろしくない書き方だ

「その他当社が不適切と判断」条項は、上で書いたとおり、文面通りに適用すると、あまりに広い範囲がガイドライン違反になってしまいます

実際は文面通りに適用されるものではなく
「RK Music・VESPERBELLが自身に結びつけられることを望まないイメージを、視聴者が彼らに結びつけるような内容」
の禁止だと読むべきものである、という話は本文の通りです。

そうであれば、最初からそのように書いてほしいですよね。
紛らわしいし、本当はこの条項の違反にはならないのに「違反しそうだからやめとこ…」となる人が出てしまいます。
(「違反しそうだからやめとこ…」と踏みとどまってしまうような効果を『萎縮効果』と呼びます。)

また、上のように限定して読んでも、なお、どのような場合がこれに該当するか明確ではありません
二次創作者にとっては、自分の行為が該当するかわからない条項がある、というのは困りものです。

それでは、

「こんな条項はけしからん! 」
「こんな条項を定めたRK Musicはおかしい!!」

…と言えるでしょうか?

私はNOであると思います。

段階を分けて説明します。

包括的・抽象的な条項も必要である

すべての不適切な類型を個別具体的に列挙して定めることは現実的ではありません。

もし個別条項で書き漏らしてしまった場合には、どんなものであっても常に「お前が書かなかったのが悪い」として切り抜き動画の削除を認めないのは、RK Musicに酷です。

もしそんな要求が通ってしまうのであったら、RK Musicを含めVTuber/singer事務所にとって、切り抜き動画をガイドラインで許諾するコスト・リスクとリターンが釣合いません。
書き漏らしのリスクを最低限まで下げるためには、これまで問題となった切り抜き動画・今YouTube上にある切り抜き動画の実態(他社を含む)・将来起こり得る問題をすべて調査し尽くして万全の規定を作る必要があります。
法的問題にも切り抜き動画などのエンタメにも精通した専門的な弁護士に依頼するとなると、コストは相当高くなるでしょう。
そのため、ガイドラインで利用許諾を出す事務所はなくなるでしょう。

かといって、ガイドライン方式をやめて「全て一対一の個別で事前審査をして利用許諾を出す」というのもあまりに煩雑です。

結局、包括的・抽象的な禁止条項が認められないとなると、「黙認・放置」に逆戻りすることになります。

「黙認・放置」状態と「包括的な条項もあるガイドライン」が存在する状態と、どちらがマシでしょうか?

ガイドラインのなかには、禁止事項を定める条項以外の規定もあります。
たとえば、ガイドラインの適用先や、ガイドライン違反に対する対応の方針などを定める規定です。
これらがガイドラインに書かれていれば、事務所が切り抜き動画の権利関係をどう捉え・どんな対応を取るかという基本的なスタンスが明らかになります。

また、個別的な禁止条項も役に立ちます。
少なくとも明確なNG行為を読み取ることができ、それを避けることができるからです。

以上をまとめると、たとえ禁止条項のなかに包括的な条項があったとしても、なお、ガイドラインがあるほうが「黙認・放置」状態よりも利用者側にとって判断の参考になるものがあるので「マシ」と言えるでしょう。

このように、ガイドラインを定めつつその中に包括的な条項を入れることは、RK Musicの利益を保護しつつ、切り抜き動画投稿者にある程度の予測可能性を与える、1つの「落とし所」であると思います。

包括的な条項として望ましい文言は

禁止行為の対象を特定しない包括的な条項を定めるにしても、なるべく判断基準が明らかにされていて、言葉通りに運用できるものが望ましいのは当然です。
(条項の文言の解釈や事案への適用を巡って争いが起きることは、生産的ではありません。)
私は、本文で示した内容をそのまま文言にして、

上記のほか、当事務所および所属タレントについて視聴者に望ましくないイメージを持たせる内容

と定めるのが望ましいと思います。

「当社が~判断」という文言について

RK Musicの事情――なぜこんな書き方を?

RK Musicはなぜ「当社が~判断」という文言を採用したのでしょうか?

それは、裁判所ではなく自分のところに『不適切』か判断する権限を残したいからであるように思います。

RK Musicに利用規約が存在せず、切り抜き作成者に対して一対一で利用許諾を出すスタイルだったと想像してください。
だいたい、以下のようなプロセスでしょう。

  1. RK Musicのところに、ある動画の許諾申請が届きます。
  2. RK Musicの担当者は、その動画を観ます。
  3. 【A】「この動画は公開されないほうが良いな」という問題点を一つでも見つけたら、許諾申請を却下します。
    【B】問題点が一つも見つからなかったら、許諾を出します。

さて、RK Musicが「利用規約による利用許諾」というガイドライン方式を採用した動機を考えます。
もしその動機が

本当は1件1件審査して、一つでも問題点のある動画は全て却下したいところだが、手間がかかりすぎて現実的ではないから、仕方ないのでガイドライン方式にせざるを得ない

という考えであれば。

ガイドライン方式を採るにしても
「もし1件1件審査していたら却下していたであろう動画」
を発見したら、削除させることができるような仕組にしておきたい

…と考えるのは(正当であるかはさておき)自然なことでしょう。

RK Musicが「この動画は、ないほうが良いな」と考える要素・視点はたくさんあります。
ぱっと思い付く限りでも

  • 動画の内容が素晴らしく、編集もとても上手で良い宣伝になりそうだが、一部の厄介な連中に絡まれたら面倒なので『ないほうが良い』
  • たとえ多少不謹慎な動画でも、クソバズって宣伝になりそうだから『あったほうが良い』
  • たまたま今後作ろうとしているコンテンツと被ってしまっているから『ないほうが良い』
  • このコラボ先とは関係を切る予定だから『ないほうが良い』
  • ライブチケット発売中の今は、一人でも多くの人に名前を知ってほしいから、『今はあったほうが良い』

…といった、色々な理由・視点があります。

現物を見て初めて気づくような視点もあるでしょう。
また、それぞれの視点をどれくらい重視するか、トータルとしての損得をどのように計算するかは、自分たち自身が経営判断として決定したいと考えるはずです。

こういった動機・事情を踏まえて「当社が不適切と判断する/認めるもの」という文言を見ると、

  • 不適切
    :特に視点を限定せず、すべての要素を考慮に入れることができそうな表現
  • 当社が
    :損得計算をする権限はあくまでRK Musicにあることを示す
  • 判断する/認める
    :動画を見てから事後的に判断できることを示す

RK Musicの需要に応えた、見事なワードチョイスではないでしょうか。

RK Musicの事情を受け入れられるか
利用規約という性質上、受け入れられないはずだ

私は、この文言を使用したところで、RK Musicの意図どおりの効力は発生しないと考えます。

利用規約の形で利用許諾を与える意義は、事前に提示された範囲・条件に客観的に適合していれば、たとえ著作権者が事後的に「やっぱ許諾はナシ!削除しろ、損害を賠償しろ!」と言っても応じなくて良い、という点にあります。

この「利用規約による利用許諾」という方法それ自体が持つ性質とRK Musicの「事後的にやっぱナシ!と判断したい」という要望は両立しません。
そして、RK Music自身が「利用規約による利用許諾」という方法を採用している以上、「利用規約による利用許諾」の性質のほうがRK Musicの要望よりも優先されるはずです。
もし不都合な動画は一つの例外なく排除したいと考えるのであれば個別申請&1件1件審査の方法を取るべきですし、どうしても「事後的にやっぱナシ!」をしたいのであれば、利用規約を定めずに『黙認・放置』の方法を採用すべきであった、という話です。
もっとも、その方法を採用した場合に、積極的に切り抜き動画が投稿されるとは思えませんが。

以上により、RK Musicが文言に託した作用のうち、少なくとも「当社が」「判断する/認める」の部分は効力を発揮しません。
そうであれば、意味のない(さらには争いの種になるような)言葉を省いて、シンプルに

その他の不適切なもの

と定めるべきだと考えます。

残る「不適切」の部分も、本文に書いたとおり、その対象は「RK Music、VESPERBELL、ヨミ・カスカについて、視聴者に望ましくないイメージを持たせるもの」に限定されると考えます。
ですので、やはり、「不適切」という曖昧な表現ではなく、

上記のほか、当事務所および所属タレントについて視聴者に望ましくないイメージを持たせる内容

と定めるべきだと思います。

それでも「当社が~判断」と定める価値――言うだけタダ

以上の解釈を、裁判所が採用するとは限りません。
(私は、採用するべきだし実際採用するだろうと考えていますが。)

RK Musicとしたら、とりあえず「当社が~判断」と定めておいて、もし裁判所がRK Musicの意図どおりに解釈して「やっぱナシ!」を認めてくれたら儲け物です。
もし最初から「その他の不適切なもの」と定めてしまっては、このチャンスは生まれません。

ですので、RK Musicが「やっぱナシ!」できるチャンスを最大化するための戦略として、実際にその言い分が通ると考えているかどうかに関わらず、とりあえず「当社が~判断」と定めておくことは有効な方法です。

「言うだけタダ」をやる事務所、二次創作者的には、どう?

ここからは私のお気持ちです。

もし、RK Musicが上のような「もしこの言い分が通ったらラッキー」「自分たちがやっぱナシできるチャンスを最大化できる」という目論見でこのような規定にしているとしたら、私は少し残念です。

というのも、「この言い分が客観的に正しいか・裁判所がこの言い分を採用してくれるかわからないが、自分に有利だからとりあえず言えるものは言っておく」というのは、私たち二次創作者を争いの仮想敵として、その争いでRK Musicが最大限の勝利を収めるための戦略だからです。

「自分たちは、事務所・アーティストとファンの関係はこういうものであるべきだ・あってほしいと思っている。ファンの二次創作はこういうものであってほしい。だからこの規定を掲げる」
という、理念に基づき共により良い方向を目指す姿勢ではありません。

後者のように、理想・理念を掲げて、ファンに対しても「より良い関係を目指してくれるはずだ」という信頼を示してくれたのであれば、「俺もファンとして頑張って、VESPERBELLというプロジェクトを最高なものにしていくぞ!!」という気持ちをより強く持てるような気がします。

また、後者のような姿勢を取る運営であれば、悪意のない著作権侵害に対して、一方的な「不適切だ」という主張や、「最大限むしりとってやろう」というような多額の損害賠償、「見せしめにしてやろう」という刑事告訴はしないだろう…と信頼・安心して二次創作に励むことができます。

私たち二次創作者が、ガイドラインに違反してVESPERBELL、ヨミ・カスカに損害を与えることのないよう注意して創作活動をするのは当然のことです。
また、VESPERBELLの成長・発展・維持やヨミ・カスカの利益のために事務所が必要な権利行使をしてくれることは、私達ファンからも望むものです。

ですが、私たちが「これはどう考えても不適切ではないでしょ」と思っている二次創作について権利行使を受け、それによって民事裁判や刑事手続の負担を強いられるリスク(たとえ最終的に権利行使が斥けられるとしても、それまでの裁判等の手続には、金銭的にも時間的にも莫大な負担があります)まで私たちが負担するべきであるとは思いません。

一介のファンがこれをいうのはおこがましいですが、私たちをもっぱら綱引きの相手方として捉えてガイドラインの文言を工夫するのではなく、VESPERBELLの成功という同じ願いを叶えるためにガイドラインが果たすことのできる役割という観点からガイドラインの内容の公正さ・明確さに配慮してくれたら、幸せなことです。

利用規約による利用許諾という方法に限らず、一対一の利用許諾契約でも、事前に条件を提示することの限界・実際に出来上がったものをどのように取り扱うか、の問題が生じます。

原作作品のアニメ化・映画化について考えましょう。

アニメ化・映画化などにあたっては、企画者は、何よりも先に、原作者との間で利用許諾契約を結びます。
使ってはいけない作品をアニメ化しても何の意味もないですからね。

この利用許諾契約も、ある程度包括的な条件・内容で結ばれます。
その理由は、

  • 事前にどんな制作物ができるかすべて説明し・約束することは不可能
  • 制作サイドとしては、あまり細かい約束はしたくない
  • 現場に裁量があるほうが、クオリティーの高いものが出来上がる可能性が高い

…といった事情です。

しかし、利用許諾契約を得て、制作が進められ、いざ完成品が出来上がってみたら、原作者が「許せる代物じゃない、こんなもの公開してほしくない」と思う代物だということが起こってしまうと悲惨です。

クリエイターであり作品の生みの親である原作者にとって、自分の作品が実際にどのように人々に届くか、つまり完成品の出来栄え・内容こそが、アニメ化における一番の関心事でしょう。
原作者としては「完成した現物を見てからノーと言える権利」が欲しいところです。

しかし、アニメ・映画の製作会社からしたら、制作コストをたくさん費やして完成してからノーと言われても困ります。
制作をはじめてから日が経つごとに・完成に近づくほどに、投下コストが積み重なっていきます。
ですので、原作者に「完成してからノーという権利」は絶対に認めたくないです。
もし仮に、原作者に「制作途中でノーという権利」を認めるにしても、その権利はなるべく早い段階で失効するものであって欲しいところです。

さて、両者の思惑は正反対ですが、そもそも「原作者の思いや事前に予定した制作物」と「実際に完成した制作物」のギャップが生じないような仕組を取っておけば、揉めごとは減らせるはずです。
そこで、アニメ化・映画化契約のなかには
「企画会議には原作者も出席できる」
「脚本の段階で原作者のチェックを通す」
などの条項が盛り込まれ、随時すり合わせを行っていく体制が採られることがあります。

原作者にとっては望ましい体制ですが、製作会社からしたら、そんな条項を入れずに自由に制作したいところでしょう。
ですので、この体制が常に取られるわけではありません。
原作者と製作会社とのパワーバランスで決まります。
実際、この条項を入れるか・どんな条項にするかで原作者と製作会社の意見が合わず、アニメ・映画化が没になったという事案もあるようです。

また、これらの条項を入れたところで上手く機能しないこともあります。
連載ドラマで原作者の脚本チェックと制作サイドの折り合いがつかなかった結末として『セクシー田中さん。』事件がどうなったかは皆さんご存知かと思います。

以上のとおり、原作者とアニメ・映画製作会社とのギャップは、原理的になくすことができません。

ですが、一方で、

  • 原作者「自分の作品をたくさんの人に届けてほしい・自分の作品で利益を上げたい」
  • アニメ・映画製作会社「この作品をアニメ・映画化したい」
  • 私たち消費者「この作品をアニメ・映画で観たい」

…というアニメ化・映画化のニーズがなくなることもないように思います。
(そして、アニメ化・映画化という「二次的著作物」が社会にたくさん生まれることも、また、著作権法の目的に含まれます。)

ですので、残念ながら、今後この手の争いがなくなることはないような気がします。
少しでも争いを減らすためにできることは、業界で「内容が明確で公平な契約テンプレート」を用意する、とかでしょうか。

まとめ ――【3】-2 結論

  • 二次創作ガイドラインで定める禁止条項は、違反すると切り抜き動画がRK Musicの著作権侵害となるものが多い
    グループAグループBグループCの一部
  • 以下のものは、その条項に違反するだけでは切り抜き動画がRK Musicの著作権侵害とはならないと考えられる
    グループCの一部
    • 二次利用元コンテンツそのものを自己の著作物として喧伝する行為を行った場合
    • 法令・規則、プラットフォームの規定のうち、切り抜き動画の投稿行為そのものの方法・態様を制限するものではないものに違反する場合
  • グループD「当社が不適切と判断」条項は、「切り抜き動画の内容が視聴者に与えるイメージを理由に、特定の内容の切り抜き動画を禁止する」条項であると考えられる
    • そのように解釈すると、グループDに違反する切り抜き動画はRK Musicの著作権侵害となる
    • もし上のように限定して解釈されない場合、グループDに違反したら著作権侵害になる場合とならない場合の両方があり得る

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