はじめに――この記事でやること
この記事は
【Part 1】知っておきたい著作権の仕組み
【Part 2】「切り抜き動画」は著作権を侵害するか?
{前編} 元動画の著作権と切り抜き動画の関係
{後編} 二次創作ガイドラインの位置付け
【Part 3】著作権を侵害してしまったら?
{前編} 動画は削除されるか?
{中編} 賠償金を支払わなければならないか?
{後編} 犯罪者になるか?
【Part 4】RK Musicのガイドラインを読んでみる
にあたります。
【Part 3】全体の結論は、
【Part 3】の結論
切り抜き動画がRK Musicの著作権を侵害する場合、
【4】著作権を侵害する切り抜き動画についてRK Musicは、
【4-1】 動画の削除
・YouTubeに切り抜き動画を削除させることができる
(動画投稿者に削除させることもできるが、YouTubeに削除させるほうが簡単)
【4-2】 損害の賠償
・YouTubeには、損害を賠償させることができる可能性は低い
・動画投稿者には、多くの場合、損害を賠償させることができる
【4-3】 刑法
・動画投稿者を刑事告訴することができる
(ガイドラインの範囲内だと誤解していた場合には、犯罪とはならない)
【5】
第三者が口出しできることは基本的にはない
(第三者が「著作権侵害だ!」と言っても意味はない)
…です。
この記事は【4-1】動画の削除についての話です。
【4】RK Musicが切り抜き動画について請求できること
【4-1】 動画を削除させる
著作権法上の権利
まずは条文を読んでみよう
RK Musicは、著作権・著作者人格権を侵害する切り抜き動画について、削除を請求する権利があります。
著作権法に明文で定められています。
著作権法112条 1項
(差止請求権)
著作者、著作権者~(略)~は、その著作者人格権、著作権~(略)~を侵害する者~(略)~に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
誰に削除を請求できるか?
条文では「著作権を侵害する者」に対して請求することができる、と書かれています。
では、切り抜き動画によって「著作権を侵害する者」は誰でしょう?
切り抜き動画を作成し、アップロードしたのは投稿者です。
ですから、投稿者は当然「著作権を侵害する者」にあたります。
一方、切り抜き動画をインターネットで公開しているのはYouTubeです。
そういう意味では、YouTubeを運営しているGoogle LLCも、切り抜き動画によって著作権を侵害しているようにも見えます。
YouTubeのようなプラットフォーマーが著作権法上の「侵害する者」にあたるか(=YouTubeに対して差止請求できるか)、裁判例はなく、学説上も意見がわかれています。
EUではプラットフォーマーに対しても差止請求をできることが明示的に定められているそうです。
(EUおよびアメリカの制度について・参考:(PDF)「著作物の利用に関するプラットフォーマーの役割と責任」鈴木將文, パテント2022 vol.75 No.11 P.155~)
しかし、実務上はGoogle LLCに対して削除を求める仮処分の申立が行われ・これが認められていますので、本記事では請求できると扱います。
プラットフォーマーは、動画作成・投稿者とは異なり、「投稿する場」を提供しているに過ぎません。
場所が存在するだけでは、著作権侵害は生じません。
投稿者が「著作権を侵害するコンテンツ」を投稿してはじめて、著作権侵害の問題が生じます。
このように、「著作権侵害」という結果が発生するまでに異なるレベルで複数の関与がある場合に、果たして誰に対して権利行使ができるのか?という問題があります。
著作権法の議論では、動画作成・投稿者のように自らが主体となって直接に著作権侵害行為をした者を「直接侵害者」と呼び、「直接侵害者」が侵害することを可能・容易にした者を「間接侵害者」と呼び、両者を区別して考えます。
「直接侵害者」は著作権法112条の定める「侵害する者」にあたるから差止請求ができる、というのは当然です。
一方、「間接侵害者」およびプラットフォーマーについての議論の構造は、2段階に分かれます。
【論点1】 「間接侵害者」も著作権法112条の「侵害する者」にあたるため、著作権に基づく差止請求の対象となるのか?
【論点2】 形式的には「間接侵害者」に見えても、実質的には「直接侵害者」として「侵害する者」であると評価できる場合があるのではないか?
【論点1】 「間接侵害者」に対して、著作権に基づく差止請求権が生じるか?
法学部生向けに刑法で喩えると、正犯ではない教唆犯・幇助犯が「侵害する者」にあたるか?という問題です。
たとえば泥棒では、実際に盗みに入って盗み出した人が正犯、泥棒をするよう唆した人が教唆犯、泥棒する間に家の人が帰ってこないか見張っていた人が幇助犯、という感じです。
裁判例では、肯定説・否定説にわかれています。
明確に否定したものは「2ちゃんねる・罪に濡れた2人」事件 第一審(東京地判平成16年3月11日 平成15(ワ)15526)です。
下に述べる否定説の考え方を採用して、
現に侵害行為を行う主体となっているか,あるいは侵害行為を主体として行うおそれのある者のみを相手方として,行使し得るものと解すべき
と判示しました。
それに対して、同事件の控訴審(東京高判平成17年3月3日 平成16(ネ)2067)では、
- 匿名掲示板の運営者には、著作権侵害となる書き込みがあった際には,これに対し適切な是正措置を速やかに取る態勢で臨むべき義務がある
- 少なくとも,著作権者等から著作権侵害の事実の指摘を受けた場合には,可能ならば発言者に対してその点に関する照会をし,更には,著作権侵害であることが極めて明白なときには当該発言を直ちに削除するなど,速やかにこれに対処すべきものである。
- 被控訴人は,上記通知に対し,発言者に対する照会すらせず,何らの是正措置を取らなかったのであるから,故意又は過失により著作権侵害に加担していたものといわざるを得ない。
ことを理由に、「侵害する者」にあたると判示しました。
他に肯定説を採る裁判例には、カラオケ機器リース事件(大阪地判平成15年2月13日 平成14(ワ)9435)があります。
以下のように判示しました。
侵害行為の主体たる者でなく、侵害の幇助行為を現に行う者であっても、
①幇助者による幇助行為の内容・性質
②現に行われている著作権侵害行為に対する幇助者の管理・支配の程度
③幇助者の利益と著作権侵害行為との結び付き
等を総合して観察したときに、
・幇助者の行為が当該著作権侵害行為に密接な関わりを有し、
・当該幇助者が幇助行為を中止する条理上の義務があり、かつ
・当該幇助行為を中止して著作権侵害の事態を除去できる
ような場合には、当該幇助行為を行う者は侵害主体に準じるものと評価できるから、同法112条1項の「著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」に当たる
上記の肯定する2つの裁判例は、ともに「故意または過失」や「条理上の義務」があることを理由に「侵害する者」にあたると判示している点に特徴があります。
学説においては、肯定説・否定説いずれかが一般的・支配的であるという状況ではないようです。
肯定説のなかにも、上記「2ちゃんねる・罪に濡れたふたり」事件と同様に、間接侵害者に故意または過失がある場合のみ「侵害する者」にあたる、とする立場(いわば限定肯定説)があります。
(個人的に、どちらが正しいか全く検討がつきません。)
それぞれの考え方・意見が対立しているポイント(視点)を紹介します。
この問題についての視点は、3つに分類できます。
《視点①》物権的請求権との関係
・著作権に基づく差止請求権は、物権に基づく差止請求権(物権的請求権)と類似している。
・物権に基づく妨害排除請求権では、「直接侵害者」だけでなく「間接侵害者」に対しても妨害排除請求権が認められている。
・そのため、著作権に基づく差止請求権でも、「間接侵害者」に対する請求を認めるべきではないか?
《視点②》特許法との関係
・著作権に基づく差止請求権は、特許権に基づく差止請求権と類似している。
・特許法に基づく差止請求権では、「間接侵害」にあたる行為のうち一部について「侵害するものとみなす」という規定を置いて差止請求を認めている(特許法101条)。
反射的に、「侵害するとみなす」と規定されていない「間接侵害」には差止請求が認められないと理解されている。
・著作権法にも「侵害するものとみなす」という規定があるが(103条)、「間接侵害」であって「~みなす」とされるものは1つも定められていない。
ということは、著作権法は「間接侵害」に対して差止めを認めないという考えなのではないか?
《視点③》必要性・許容性
・「間接侵害」に対して差止請求権を認めないと、著作権の保護として不十分ではないか?
・「間接侵害」に対して差止請求権を認めても、権利者以外の一般的な第三者は困らないのではないか?
それぞれについて、「間接侵害者」に対して著作権に基づく差止請求権を認める派(肯定説)と認めない派(否定説)の考えを見てみましょう。
《視点①》物権的請求権との関係
●肯定説
・物権に基づく妨害排除請求権では、「直接侵害」「間接侵害」という区別なく、現にその侵害状態をコントロールしている者に対して妨害排除請求権が認められる。
・著作権法もそう考えるべきだ。
◆否定説
・物権に基づく妨害排除請求権でも、実際に「間接侵害者」に対して差止めが認められる場合はないのではないか。
《視点②》特許法との関係
◆否定説
・特許法と著作権法の構造は共通するものが多く、差止請求権についても共通する。
・それぞれ「侵害するものとみなす」という規定を設けるなかで、すでに「どういうものを差止めの対象とすべきか」の衡量がされていて、その結果が著作権法103条と特許法101条に規定されている。
・にもかかわらず、著作権法103条で(特許法とは異なり)あえて差止めの対象とされなかった「間接侵害」に差止めを認めては、著作権法103条の存在意義が無となる。
●肯定説
・特許法と著作権法を必ずしもパラレルに捉える必然性はない。
《視点③》必要性・許容性
●肯定説
・著作権侵害を引き起こすのに実際に寄与している度合いが「間接侵害」のほうが大きい場合がある
・匿名プラットフォームなど「直接侵害者」を特定するのが難しい場合も多く、迅速に著作権侵害を差止めするには「間接侵害」に対する行使を認める必要がある
・「間接侵害」に対する差止請求権を認めても、著作物を利用する第三者一般に不測の損害を与えるおそれはない
・著作権法102条も、差止請求権の対象を明確に「直接侵害」に限定しているわけではない
◆否定説
・民法上、侵害に対する救済として損害賠償請求だけでなく差止請求まで認められるのは特別な場合に限られている。
・著作権法103条に明文で書かれていないものにまで差止請求権を認めるのは解釈の限界を超える。
・差止請求権を行使できないことが不当であるにしても、それは司法ではなく立法で対処すべきだ
【論点2】 形式的には「間接侵害者」に見えても、実質的には「直接侵害者」と同視できる場合があるのではないか?
肯定する最高裁判例があります。
最初に肯定した最高裁判例は、カラオケスナックでは実際に歌を歌っている客や従業員ではなく経営者が「侵害する者」にあたると判示しました(「クラブキャッツアイ」事件(最判昭和63年3月15日 昭和57(ネ)595)。
この判例を一般化した、
「自ら物理的な侵害行為をしていなくても、著作権侵害の行われる場所を支配・管理し、それによって利益を上げている者は「直接侵害者」と同視できるため「侵害する者」にあたる」
という考え方(通称『カラオケ法理』)を適用して「侵害する者」であると認める裁判例が複数登場しました。
(『カラオケ法理』という名前ですが、カラオケ以外の状況にも適用されます。)
しかし、平成20年前半に出た「ロクラクⅡ」事件最高裁判決や「まねきTV」事件最高裁判決(最判 平成23年1月18日 平成21(受)653)は、『カラオケ法理』とは異なる判断基準を採用しました。
比較的新しい最高裁判例であるヤマハ音楽教室事件(最判令和4年10月24日 令和3(受)1112)も、『カラオケ法理』に基づく主張を退けています。
事件名・番号
「ロクラクⅡ」事件(最判平成23年1月20日 平成21(受)788)
事件の概要
㈱日本デジタル家電という会社が、「ロクラクⅡ」というサービスを提供していました。
このサービスは、大雑把に言うと「インターネット経由でTVを録画して、それを視聴できる」ものです。
流れを説明すると、
①利用者が、㈱日本デジタル家電と「ロクラクⅡ」利用契約を結ぶ。
②利用者のところに「ロクラクⅡ」(子機)という端末が届く。
③利用者は、録画したいTV番組を「ロクラクⅡ」(子機)に入力する。
④「ロクラクⅡ」(子機)は、入力されたデータを「ロクラクⅡ」《親機》にネットで送信する
⑤「ロクラクⅡ」《親機》は、受信したデータ通りにTVを録画する
⑥「ロクラクⅡ」《親機》は、TVの録画が完了したら、動画を「ロクラクⅡ」(子機)にネットで送信する
⑦利用者は、「ロクラクⅡ」(子機)に入っている動画を観ることができる。
…といった感じです。
裁判になったこと
TV放送局各社が、㈱日本デジタル家電に対し、
「著作権に基づき、録画という著作権侵害行為の差止めを求める」
と訴えました。
争われたこと
実際にどの番組を録画するか決定して入力するのは利用者である
➥・録画という著作権侵害をしているのは利用者
・㈱日本デジタル家電は道具(サービス)を提供しているに過ぎない
➥㈱日本デジタル家電は「侵害する者」ではない
➥㈱日本デジタル家電に対して差止請求はできない
最高裁が言ったこと
まず、差止めの対象となる「侵害する者」(今回の事件で言えば複製の主体)の判断基準について
複製の主体の判断に当たっては,
複製の対象,方法,複製への関与の内容,程度
等の諸要素を考慮して,
誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当である
としました。
その上で、この事件については
サービス提供者は,単に複製を容易にするための環境等を整備しているにとどまらず,
・その管理,支配下において,放送を受信して複製機器に対して放送番組等に係る情報を入力するという,複製機器を用いた放送番組等の複製の実現における枢要な行為をしており,
・複製時におけるサービス提供者の上記各行為がなければ,当該サービスの利用者が録画の指示をしても,放送番組等の複製をすることはおよそ不可能なのであり
・サービス提供者を複製の主体というに十分である
…と、㈱日本デジタル家電が複製の主体になることを認めました。
寸評
この最高裁判例では「諸要素を総合判断」という判断方法が採用されています。
これは『カラオケ法理』の判断方法とは異なる、と評価されています。
最近も「ヤマハ音楽教室の運営者は「侵害する者」にはあたらない」とする最高裁判例が出ましたが( 最判令和4年10月24日 令和3(受)1112)、「ロクラクⅡ」事件と同様に「諸般の事情を考慮」して判断されています。
『カラオケ法理』に則ったJASRACの主張が退けられた形です。
(ただし、明確にカラオケ法理を否定しているわけではありません。)
今後、『カラオケ法理』を適用する事案は減少していくかもしれません。
しかし、そうなった場合、「諸要素を総合判断」で良いのか?という問題があります。
(「諸要素を総合判断」では、実質的に判断基準を示していないのではないでしょうか。)
『著作権法実践問題』椙山敬士(編著),日本加除出版 P.111(著・椙山敬士)は、ロクラク事件の採用した「諸要素を総合判断」型の基準について、
これは要するに「わたし(裁判官)違法と見る行為は違法である」というに等しいと言うべきである。
これは、下級審の専門部がそれなりに要件化につとめてきた努力を無にするものである。
と判断基準の不存在を批判し、
著作権の利益団体はロビーイング等により、その利益を法に反映させることができるのであるから、それ以上に保護する方向で法をゆるく解釈すべきではない。
~(略)~
ユーザー等の利益を補充する必要がある場合にユーザー等に有利な方向でのゆるい解釈は許されるが、逆は許されないのである。
と、「侵害する者」の範囲の拡張はあくまで立法で解決すべき問題であると指摘します。
判例においては「直接侵害者」と同視できる者を「侵害する者」として扱うことができる、という結論自体は確立しており、その判断方法について変化がある、と評価できそうです。
上記【参考】「ロクラクⅡ」事件の解説 で説明したとおり、現在の最高裁の判断基準は「諸要素を総合判断」であると言えそうです。
しかしこれでは何もわかりませんね。
その中身について、これまでの裁判例をもとに以下の2つの類型を挙げる説明がわかりやすかったので紹介します(島並ほか P.324~325)
・手足論
他社による物理的な利用行為を雇用契約等の密接な支配関係によって行わせていることに着目して利用行為の主体と評価する考え方
・ジュークボックス法理
ある者がその管理・支配下において自動的な機器と対象コンテンツを利用者の使用に供する場合は、たとえ当該機器の操作自体は利用者が行うとしても、当該提供者を利用行為主体と評価する考え方
学説でも、形式的には「間接侵害者」に見えても「直接侵害者」として扱って良い場合があることを前提に「どういう場合なら同視して良いか?」を検討するものが多いように感じます。
YouTubeについて考えよう
【論点1】はさておき、YouTubeが「直接侵害者と同視できる」から「侵害する者」にあたる、と言えるでしょうか(【論点2】)?
参考になる事例として、『パンドラTV』という動画投稿サイトに対してJASRACが著作権に基づき動画の公開等の差止めを求めた裁判例があります。
(「パンドラTV」事件 【控訴審】知財高判平成22年9月8日平成21(ネ)10078 【原審】東京地判平成21年11月13日 平成20(ワ)21902)
この事件は、JASRACがYouTubeやニコニコ動画など色々な動画投稿サイトと包括契約を結ぶ手法を導入するなかで、『パンドラTV』が「条件が厳しすぎる!」として契約を蹴ったため、JASRACが動画の差止めに踏み切ったという経緯があります。
『パンドラTV』に提示した条件はニコニコ動画に提示したものと全く同じだったそうです。
原審の判決のなかで、誰が「侵害する者」にあたるかの判断について以下のように判示しています。
著作権法上の侵害主体を決するについては 当該侵害行為を物理的・外形的な観点のみから見るべきではなく,これらの観点を踏まえた上で,実態に即して,著作権を侵害する主体として責任を負わせるべき者と評価することができるか否かを法律的な観点から検討すべきである。
この検討に当たっては,
・問題とされる行為の内容・性質,
・侵害の過程における支配管理の程度,
・当該行為により生じた利益の帰属
等の諸点を総合考慮し,
侵害主体と目されるべき者が自らコントロール可能な行為により当該侵害結果を招来させてそこから利得を得た者として,侵害行為を直接に行う者と同視できるか否か
との点から判断すべきである。
(この裁判例は『カラオケ法理』を適用していると考えられます。
ですが、そこで着目した要素は、総合判断のなかでも考慮すべき事情であると言えるでしょう。)
この裁判例をもとに、直接侵害者と同視できるかどうかの考慮要素をまとめたものが見つかりましたので紹介します。
(『Q&A 著作権の知識100問』清水節・岡本岳(編著),2013,日本加除出版)
①問題とされる行為の内容・性質及び構成の特徴
(『Q&A 著作権の知識100問』P.383~ 清水節・岡本岳(編著),2013,日本加除出版)
(ⅰ)サービスが動画配信サイトと同様の機能を有する(動画が不特定多数の視聴に供される)こと
(ⅱ)動画の投稿が匿名でされ得ること
(ⅲ)動画の分類カテゴリーに、著作権侵害の蓋然性が高いと推測されるものが存在すること
(ⅳ)著作権を侵害する動画が多数投稿されていること
(ⅴ)著作権侵害を繰り返すユーザーに対する再発防止のための実効的手段がないこと
②侵害の過程における支配管理の程度
(ⅰ)動画のサーバーを運営者が管理支配していること
(ⅱ)サービスを利用するには、運営者の提供するシステムに従う必要があること
(ⅲ)動画の内容を認識して一定の動画を推奨したり削除していること
③当該行為により生じた利益の帰属
動画数と運営の利益額に相関関係がある場合には、運営者が侵害行為を直接に行う者と同視される方向に作用する
④侵害態様
(ⅰ)投稿動画のうち著作権を侵害するものの割合が高いこと
(ⅱ)権利侵害の防止・解消について消極的な姿勢に終始していること
YouTubeは、
①(ⅲ)著作権侵害の蓋然性が高いようなカテゴリーを用意していない
(「パンドラTV」では「韓流」というカテゴリーがこれにあたると考えられました)
①(ⅴ)著作権侵害の警告が繰り返し出されたチャンネルは停止する、という措置を用意している
④(ⅱ)Content IDや『著作権侵害による削除通知』という著作権侵害の防止措置を用意している
…という点で、少なくとも『パンドラTV』よりは直接侵害者と同視しづらいように思います。
ただし、「絶対値としてどのくらい該当したら直接侵害者と同視できるか」の物差しがありません。
ですので、YouTubeが直接侵害者と同視できるかどうか、私には判断できません。
最高裁が、「プライバシー」を理由に、ツイッター社に対してツイートの削除を命じた判例があります。(最判 令和4年6月24日 令和2(受)1442)
ツイッター社は「ツイートを投稿する場を提供しているだけ」です。
YouTubeが「動画を投稿している場を提供しているだけ」であるのと同じプラットフォーマーという地位です。
この事件で差止めの根拠となったのは、著作権ではなく「個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益」という人格的利益・人格権です。
プライバシーという人格権を具体的に定めた法律は存在しませんが、法律上保護されるべき権利であると理解されています。
人格的利益という言葉、どこかで聞き覚えがありませんか?
そう、「著作者人格権も人格的利益の保護を目指している」という話です。
ですので、著作権/著作者人格権を侵害しているからといって必ずプラットフォーマーに対して差止請求ができるわけではないが、その侵害が人格的利益を害する場合は、人格権に基づき差止請求ができる可能性が(理論上は)あるということになります。
実際に、どっちに・どのように削除を請求するか
削除の請求に限らず、法律上の権利を持つ人が、その権利を実現する方法は2つあります。
1つは、相手に「自分には権利がある」と説得して、任意に応じさせること。
もう1つは、法律上の手続によって強制的に応じさせること。
AさんがBさんに5万円を貸していたとしましょう。
法律上、AさんはBさんに対して「5万円を返せ」と請求する権利があります。
Aさんは、まず、Bさんに対して「お前は俺に5万円を返さなければいけないはずだ、だから返せ」と要求します。
Bさんが納得して5万円を返してくれれば一件落着。
これが1つ目の方法です。
しかし、Bさんが「金を借りた覚えはない」とか「もう返した」とか理由をつけて返済を拒否した場合。
Aさんは裁判所に行って「BはAに5万円を返せ」という判決を出してもらい、その判決を「執行裁判所」に持っていって、執行官という公務員に「強制執行」で取り立ててもらいます。
これが2つ目の方法です。
RK Musicの削除請求にも同じことが言えます。
まずは、動画作成者かYouTubeに対して「著作権の侵害をしているから消すように」と要求して、それに応じて削除してくれれば話が早いですよね。
そして、YouTubeは「そういう要求を受け付けるシステム」を用意しています。
ですので、RK Musicは、実際上
① まずはYouTube上のシステムを使ってYouTubeに任意に削除するよう要求する
② ①でYouTubeが削除に応じてくれないときに、法的な手続によって削除を強制する
…というフローを採用するでしょう。
「RK Musicが動画作成者に対して削除を要求をすること」は実は簡単ではありません。
「動画作成者がどこの誰か」の情報をRK Musicが持っていないからです。
(切り抜き動画を投稿したYouTubeチャンネルにメールアドレス等が書いてあれば話は別ですが。)
こういうときのために、「動画作成者がどこの誰か」知るための制度が用意されています。
それが『発信者情報開示請求』という制度です。
ですが、RK Musicが「動画を削除できればそれで良い」と考えているのならば、そんな回りくどい手続を取る必要はありません。
上で書いたように、YouTubeに削除の要求(場合によっては法的な手続)をすれば済むからです。
『発信者情報開示請求』の出番が来るのは、主に、RK Musicが切り抜き動画作成者に対して損害賠償を請求するときです。
YouTubeに対して損害賠償を請求できる場合・範囲は『情報流通プラットフォーム対処法』(つい先日、『プロバイダ責任制限法』から改正されました)で限定されています。
ですので、RK Musicが切り抜き動画によって受けた損害を損害賠償請求によって補填するには、切り抜き動画作成者に対する権利行使が必要となります。
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