1章 「vesper」と「vesper bell」
2章 「vespebell」と『VESPERBELL』
┣0節 1章の復習・2章の予習
┣1節 「祈り」と『VESPERBELL』の世界観
┃┣0. この節でやること
┃┣1. VESPERBELL世界での「祈り」の種類
┃┣2.歌詞の中の関連ワード
┃┣3.『廻(めぐ)る』
┃┣4. 『記憶』
┃┣5. 『運命』・『光』
┃┗6. 1節のまとめ
┃
┗2節 「時間」か「鐘」か
(2章1節の続き)
6. この節のまとめ
(1)VESPERBELL世界における《何らかの運命的な力・人智を超えたもの》
ここまで検討してきた『廻る』『記憶』『運命』『光』をまとめると、VESPERBELLの世界観がある程度見えてくる。
VESPERBELLの世界観において、世界は無数に枝分かれし、多元的に存在している。
いわゆる平行世界だ。
その個別の世界それぞれに、ヨミ・カスカがいる。
個別の世界を超えたメタな視点から二人を観察すると、舞台となる世界を次々渡っていくことになる。
世界が『廻る』=輪廻すると表現される所以だ。
《世界Aのヨミ》《世界Bのヨミ》《世界Cのヨミ》は独立した別個の存在であり、記憶が当然に同期・統合されるわけではない。
しかし、相互に作用することがある。
《世界A・Bのヨミ》の『記憶』が直接、あるいは《個別の世界のヨミを統合する高次元のヨミ》の『記憶』として、《世界Cのヨミ》の意識のなかに現れ、進むべき道を伝えるのだ。

『記憶』が伝える「進むべき道」のことを『運命』と呼び、「進むべき道」を示し導く作用を『光』と表現する。
『運命』は進むべき道であるが、「なにもしないでも必ずそうなるもの」ではない。
あくまで、ヨミとカスカが、複数ある未来の中から自らの意志で選ぶものである。
また、それを実現できるかどうかは二人の努力にかかっている。
(2)VESPERBELLと祈り
さて、このような世界観において、「祈り」はどのような地位を占めるのか。
VESPERBELL世界における「祈り」とは《何らかの運命的な力・人智を超えたものに、願い・感謝すること》である。
上の世界観に登場した《運命的な力・人智を超えたもの》は
・世界が平行世界的に展開しているという仕組み
・《その世界ごとのヨミ・カスカ》が持っていない記憶が、《別世界の/高次元のヨミ・カスカ》にもたらされるという影響力
の2つだ。
しかし、この2つとも、「祈り」の対象としてふさわしくない。
物事の成り行きを直接どうこうする力を持たないから、それに「願う」ことは無意味だし、「感謝する」いわれもないからだ。
この2つに限らず、VESPERBELL世界に《物事の成り行きを思うままに設定・変更できるような存在》はいない。
ヨミとカスカが何かを実現するためには、誰かに祈るのではなく、自分自身の力で掴み取るしかない。
『RISE』も『VERSUS』も、ヨミとカスカの二人が自分で将来を選び、選んだ目標に向かって努力することを歌っている。
そのような世界の中で、「祈り」が重要な意味を持つことはないだろう。
もちろんVESPERBELL世界において「祈り」という行為が否定されるわけではない。
しかし、《VESPERBELL世界の主人公であるヨミとカスカ》の二人が行うべきは、「祈り」ではなく「努力」である。
したがって、ヨミとカスカ二人からなるユニット名『VESPERBELL』の中心に「祈り」が来ることはない。
●次回予告
さて、この節で、「vesper bell」の意味のうち「祈り」は『VESPERBELL』の中心に来ないという結論が出た。
冒頭の表で整理した「vesper bell」の意味のうち、②(ウ) は除外できるということだ。
ついでに、②(イ) 「(晩課の)祈りの合図」も除外できる。
「祈り」が重要でないなら、夕方に鳴る鐘を「祈りの合図だ」と捉えることもないだろう。

残るは、③(ア) (イ) と④(ア) (イ) だ。
③近代と④現代の違いは、『VESPERBELL』の世界観の時代設定に関わるだろう。
(ア) と(イ) の違いは、『VESPERBELL』という名前が「時間帯」に焦点を当てるのか、それとも「一定の目的のもとに鐘を鳴らすこと」や「鐘の音」をキーとしているのか、という点だ。
ただし、(ア) か(イ) かは、必ずしもどちらか一方に決まるものではなく、「両方」という回答もあり得る。
次節では、これらについて検討していきたい。
…といったところでこの記事はおしまい。
(その⑨)に続く。
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